今、日本で、世界で起きていること。
年齢も国籍も、言葉も違うすべての人間が同じ目に遭っている。
9年前の東日本大震災では、
地震や津波によってたくさんの尊い命が失われ、
見えない物質が地球をまるごと汚染した。
私たち日本人は、あれから一体どれほど生活や生き方を変えたのか。
自然を汚してしまったことを、どれほど謝ったのか…。
今まさに、あの頃を彷彿とさせる状況の中、
私たちは再び目に見えないものの恐怖にさらされている。
新型コロナウイルスは、国や宗教、貧富も無差別に牙をむき、
「ステイホーム!」と人々を家に閉じ込めた。
一つだけ救いがあるとすれば、家族と共にいられること。
もしこの事態に、愛する子どもと離れ離れになっているとしたら、
その苦しみは耐え難いものになっていただろう。
家族とも会えずに最期を迎えた人もいる。
生きている私たちには、
その人たちの分まで、明日を担う役割がある。
ある意味、これまでの生活…
生き方や考え方が本当に正しかったのかを、
考えるに十分な時間を与えられたのかもしれない。
冬を越え、春バラが咲き始めた。
美しいその姿で人々を魅了するバラたちは、
たとえ訪れる人がいなくても、美しく静かに、凛としてそこに在る。
数百種類もあるバラの中で、
「不可能」という花言葉を持つ「ブルーローズ」。
もとより、自然界には存在し得ない、青いバラ。
だが「不可能」といわれた青いバラづくりに人生を賭けた、
小林森治というバラ育種家がいた。
純粋な交配のみで青いバラを誕生させるのに、
40年の歳月を費やし、2006年5月11日、74歳で急逝した。
バラが美しいこの季節。
小林さんが愛情をかけて生み育てたバラたちが、
毎年命日を飾るのだろう。
ところで、太陽の周りを公転する金星と地球の
8年間の軌道をトレースすると、
五弁の美しいバラの幾何学模様が浮かび上がるという。
自然の神秘に感動し、
人間の力を超えたものへの畏敬の念を抱かざるを得ない。
小林さんにとっての青いバラは、
「青い地球」だったのかもしれない。
まもなく「母の日」がやってくる。
これまで幾度となく、当たり前に贈られた赤いカーネーション。
だが今年は、心の中に青いバラを咲かせたい。
こうしてわが子のそばにいられることに感謝し、
50年後、100年後も、この日を笑顔で迎えられるように。
改めて原点に立ち戻り、生きていく意味を見つめ直したい。
わが子のそばで、不可能を可能にするために…。
(藤本裕子学長コラム 2020.5月)
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