お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

卵焼きに込める

レボルバー 接眼レンズ プレパラート…
方程式 絶対値 XとY √5…
How  are  you?  Fine  Thank  you.
うんうん唸って机に向かっているきみに
何かを聞かれても答えることができなくなった

覚えてくる友だちの名前も電話番号も
ずっと多く複雑になって知らないことも増えた
まして、恋の話を一緒に笑えても
本当の悩みは聞き出すことすらできず

陸上部などに入ったから
きみの逃げ足には 母さん遠く及ばず
つかまえることすらできなくなった
一緒に野原を駆け回っていた日は遥か彼方

ひとつまたひとつしてやれることが減っていく
どんなに助けてやりたくても
じりじりと見守ることしかできない
そんな時間が…増えてゆく

給食がお弁当に代わり
それだけが母さんの手を出せる領域となった
弁当でしか応援できなくなった母さんは
毎朝、せっせと卵焼きを焼いている

少しずつ厚くなっていく卵焼きに
思いを込める
ひっくり返すリズムごとに
「がんばれ」「がんばれ」「がんばれ」
がんばっていることは重々承知で、それでも
頼みのような祈りのような思いを込める

(益子由実/1709母ゴコロ)