年前に手にした本『胎児との対話』(森野夏海著・アウル企画刊)を、今夏再読した。登場人物は、お腹の子と対話ができる一人のお母さん。
どちらかといえばスピリチュアルな話は苦手な私だが、そのとき、なぜか夏海さんに会いたくなって、翌日、石垣島へ飛んだ。
健康的に日焼けした、ごくフツーのお母さん。だが彼女が話す、お腹の赤ちゃんとの対話は、子育てに悩む母を胎児が諭すような…信じられないくらい大人の会話だった。そんなことがあり得るの?と疑問もわいたが、真実はどうでもいい。
お腹の子を「イルカちゃん」と呼ぶ彼女は、美しい海のビーチでお産をした。
話を聴きながら、映画のようなシーンを描いた私。お母さんとわが子は、へその緒ではなく、魂でつながっているものだと感動した。
「お産は人類に残された唯一の自然」と言ったのは、岡崎市の産婦人科医、故・吉村正先生。
だが人類史上最も大切な、命をつないでいく神聖な営みが、近代化と共に変化。安全なお産を実現する一方で、母として自ら産むという覚悟のもと、お腹の子どもとしっかり向き合う、自然なお産が消えつつある。
お産に限らず、子育ても同じ。より経済や効率が
優先され、人間の都合、親の都合で回っていることの
なんと多いことか。お産の有り様が、社会のさまざまな課題につながっているようにも思えてならない。
本来、母から子へ伝承していくべきお産が伝えられないとすれば、親から子へ伝承する価値や文化そのものが消えてしまうのではと危惧するのである。
子育て情報や社会システムがどんなに変わっても、生まれた子どもは自然そのもの。子どもは根っこがなければ生きられない。
子どもにとっての幸せなお産、子どもにとっての幸せな保育、子どもにとっての幸せな学校? 「子どもにとって」が無視され続けるのはマズイぞ。そんなモヤモヤを抱えながら、鼎談に臨んだ私。
尾木ママの知見に基づく熱い話は、特集4・5頁を参照のこと。
来年4月1日に「こども家庭庁」が設置され、同時に「こども基本法」が施行される。2023年は「こども元年」となり、今後は子どもを中心とした社会に向け、さまざまなモノ、コトがシフトしていくと期待されている。
もちろん法の整備は大きいが、子どもに関わる人たちが、変わっていかなければ意味はない。
子どもは未来であり、子どもを産み育てるお母さんは一番の社会の担い手だ。お母さんだからできること、お母さんにしかできないことがある。目の前のわが子を見つめ、感じること。守るべき、未来のために。
(藤本裕子)
イラスト:石坂 香
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