これは30年前、私が子育てをしながら通信教育で大学に通っていた頃の話。
だが今、フツーのお母さんたちが、密かにこれをやっている。わが子に読み聞かせる絵本の傍らに、家族で囲む食卓の片隅に、緑色の分厚い経営書を置くお母さんたちがいる。タイトルは『成しとげる力』(永守重信著/サンマーク出版刊)。
実は「この本を読んで、著者の永守重信氏に感想文を書きませんか?」とお母さんたちを誘った。ビジネス界では誰もが知る著名人。だがお母さん業界では知られていない。にもかかわらず、32人のお母さんが「読みます!」と即答。
家計を担う者にとって本代1980円は安くない。ましてや経営書なんて読みたいはずもない。誘いを断れない?
いや、運命を感じる? それとも、「感想文を書いて、秋の京都を楽しもう!」のセリフが効いたのか…。なんせ32人の中には、アブダビ在住のお母さんもいる。
では、なぜこの本なのか…。経営書でありながら、本の中にはなんと、「母」という字が35回も出てくるのである。『父母恩重経』を唱えた、薬師寺の高田後胤もびっくりだ。
面白いのは、プロジェクト開始早々、お母さんたちから「賛同しなくてもいいですか?」「反論していいですか?」と質問がきたこと。もちろん、「心の思うまま、媚びずに書くことが、著者へのラブレターです」と答えた。
ネタバレだが、著者の言葉に、「一番を目指せ! 一番以外は全部ビリ」という強烈なフレーズがある。みんなで仲良くゴールする、今の教育とはかけ離れた言葉だが、これこそが、母からの教えだという。
あるお母さんが「Twitterで、男は一番を目指さないとダメだというツイートが話題になっていて、うちは男の子3人だけに、正直モヤモヤしています」と発言。
それを受けて別のお母さんが「3億もある精子のうち、一番早く卵子にたどり着いたものだけが受精する。これって男は一番じゃないとってことにつながっているのでしょうね?」と。
するとさらに、助産師のお母さんがこんな話をした。「そこ重要なんですが、競争ではなく、協力し合って卵子を目指しているらしいんです。卵子にたどり着ける精子は100くらいで、一番で卵子の中に入った精子=受精卵をほかの精子たちが一生懸命に応援、命の誕生がうまくいくようにみんなで助けているんですよ」と。なるほどの初説。
人の何倍も働き、一代で自社を世界のトップ企業にした著者。「事業を営む上で大切なのは、働く人たちが助け合うことなのかも」と、横道に逸れたように思えた話は、収まるところに収まり、みな納得。
未来を担う若者を育成しようと、学校や大学をつくった著者。未来の人材を育てるには、子育てが一番大事だということを理解してくれるだろう。
32人の感想文は、全国各地から京都・向日市の会長室へ。著者へのリスペクトを込めて、1111の11月11日に到着することになっている。届くといいな、母ゴコロ。(藤本裕子)
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