お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

エキストラという名優になりたい!

10年ほど前
初孫のたっくんを主役に「オババの育児日記」を連載していた私。

今でもそれを読むと、当時のことが一気に蘇る。
まさに、わが子(孫)へのレポートだ。

お母さん大学生たちがつくる「お母さん業界新聞わたし版」。
あるお母さんが、
きれいにファイリングした「わたし版」を見せてくれた。

もう3年分になりました。
娘が結婚するときに渡そうとファイルしていたのですが、
やっぱり渡せません。これは私の宝です。
そう言ってファイルを抱きしめた。

その後、オババの育児日記は、フェードアウト。
孫も4人になり、それぞれすさまじい勢いで育っている。

今になって
あ~、ずっと書き続けていればよかったなぁ、と後悔。
書いていない数年間のことは記憶に薄く、
なんだかすっぽりと心に穴が開いているような気がする。

この春、中3になるたっくんは
毎日、サッカーと勉強で忙しい。
昔のように私と遊んでくれないのは、ちょっぴり不満。
まじめで弟、妹思いのやさしいたっくん。

ある日LINEで
今、何かしたいことある?と
他愛もない質問をした。

「べつに…」

そんな返事を想定していた私だが、
返ってきた答えは意外なものだった。

「海外に行きたい!」

えっ、あの怖がりたっくんが、海外⁉

外の世界を描くようになったのか、と内心驚いた。
その世界へ一歩踏み出させてあげたい、と
さらに余計な質問をした私。

「海外って、どこの国?」

すぐさま「ヨーロッパ」と答えるたっくん。

ヨーロッパのどこ?と、さらに突っ込むと、
「まだ、わかんない」と返事が来た。

たっくんが、外の世界に目を向けたことを知って
ほくそ笑む私。

「行こう!」と送った私のメッセージのあと
たっくんからの返事はなかった。

たっくんには
私と一緒に海外へ行くというシナリオはなかったことに気づき
あ~、たっくんが描く夢を邪魔してしまった、と後悔。
最後の一言で、余計なNGシーンをつくってしまった。

エキストラは
主演を食っても、邪魔してもいけない。
LINEの取り消しはできても、描いた映像は消えない。
寂しいようなうれしいような、悔しいような、老婆の乙女ゴコロ。

たっくん家にお泊りした翌日。
早朝、朝練のために家を出るたっくん。
私は、たっくんを見送るために外に出た。

勇ましいたっくんの後ろ姿。
いつの間にこんなに大きくなったのだろう。
ずっと先の角を曲がり、姿が見えなくなるまで見送る私。

たっくんは
遠くの曲がり角で振り向いて、小さく手を振った。
私がずっと見ていることをちゃんとわかっている。

この先たっくんが、どんな世界へ行こうと、
私はこうして、いつも遠くからあなたを見つめ、
名エキストラを務めるよ。
主役が最高の人生舞台を演じられるように。

さて、このことを記録しておかなければと、ペンを持つ。
わが子への、いや、わが孫へのレポートだ。

私も、孫の結婚式に渡せない。