お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

パナソニックセンター大阪「あるままOYAKO」で お母さんを笑顔にするということ

特集 社会の課題に取り組む企業                             パナソニックセンター大阪「あるままOYAKO」で お母さんを笑顔にするということ

JR大阪駅に直結する商業施設「グランフロント大阪」にある「パナソニックセンター大阪」が、来年1月に閉館する。2013年、グランフロント大阪開業と同時にオープンした同店。地下1階は住宅設備展示、1・2階は家電などの体験エリアとカフェエリア。

そして今年4月に開所したのが、若年層のソーシャルアクションを応援する「あるままBASE」と、母親たちをつなぎ、子育てを応援する「あるままOYAKO」。

2018年には来場者数1000万人、2021年4月には1500万人と大阪の玄関口としてにぎわいをつくってきた同店だが、コロナ禍で今後の集客が見込めないこと、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速といった社会環境の変化を理由に閉館することになった。1・2階の営業は来年1月31日まで。
※地下1階リビングフロアのみ2月末閉館。来春、商業施設「松下IMPビル」(大阪市中央区城見)に移転する。

ショウルームの概念を超えてお母さんの心のよりどころに

藤本いつも「お母さん業界新聞」を応援していただき、ありがとうございます。パナソニックセンター大阪の閉館は残念ですが、今日は、この場を振り返ることで、未来につなげられたらと思います。
三浦弊社ショウルームとしては国内最大規模、最新家電や住宅設備の体験・相談コーナーを含めお客様と直接ふれあえる場でしたので、会社も苦渋の選択です。私としては「あるままBASE」「あるまま
OYAKO」に足を運んでくださる方が増えてきたところだったので、その方たちのことが気になります。一時休館のときも、ガラス越しに「開けてー」と泣き叫んでいる子どもがいたとも聞いていて、辛いところです。
藤本行政の子育てひろばでもないのに、いつでも親子で立ち寄れる場所なんですね。
三浦売ることを直接の目的としない、ショウルームの概念を超えた場所です。モノに溢れる豊かな時代になってきてなお、私たちは毎日を笑顔で過ごせているかというとそうではない。お母さんたちにも便利な製品を提供し、社会進出を応援してきましたが、実際はそれだけでは満たされないものがあるようです。
藤本三浦さんのお母さんとしての実感でもありますね。
三浦特に大きな問題だと思うのは「孤独」です。赤ちゃんと2人。なんで泣いているのか、なんで寝てくれないのか…子育ては不安ばかり。それをお母さん一人で抱えていては少子化は止まらず、社会は回っていかないと思うんです。そういう社会的なこと、地域や家庭に目がいくようになったのは、お母さん業界新聞と、宇賀さんとの出会いが大きかったですね。
宇賀今だから言えますが、はじめてお会いした三浦さんはバリバリのキャリアウーマンでクールな女性。スキがなく、住む世界が違う人という印象でした。私たちの活動や新聞の意味…お母さんの小さな悩みに寄り添うことをお伝えしても通じるかな?と。
三浦「お母さん業界新聞」には共感できても、どう活用すればいいのかわかりませんでした。「子どもってこんなにかわいいよ!」という記事はほかでも見てきたけれど、「子育てってしんどい! 泣きたい! 投げ出したい」という赤裸々な記事を見ることで、私自身も救われました。きっとこんな新聞が人の心を通わせるきっかけになるのではと、おつきあいが始まりました。
藤本三浦さんご自身の子育てについて、教えてください。
三浦18歳(高3)の娘がいて、0歳から5歳の間は主人が単身赴任でワンオペ状態でした。2歳まで石川県金沢市にいて、その後大阪に転勤になりました。当時は自動販売機を中心とした食品機器の法人向け営業を担当し、責任者でもありました。今でこそ「仕事と家庭の両立」といわれますが、当時は意識が薄く、制度や環境も整っていませんでしたので、周りに迷惑をかけまくり、なんとかやってきたわけです。
宇賀でも「孤育て」ではなかったのですね。
三浦地域のお母さんたちにはいろいろと助けてもらいました。娘のパジャマは数軒に預けていましたし、夜の会食に娘を連れて行ったことも。大事な会議で保育園のお迎えが間に合わず、職場の人にお願いしたこともありました。
藤本素晴らしい!
三浦娘には、勉強なんてできなくていいけれど、人とコミュニケーションできる人になってほしいと思っています。私が宇賀さんを尊敬しているのはそこです。ものすごく人に近くて、人の心の扉を開けるのが上手い人です。
宇賀その言葉は三浦さんにそのままお返しします。4月のリニューアルもわずか3か月でこの場がつくれたのは、三浦さんの人間力あってのもの。本当に大変でしたよね。
三浦本当に周りの人に助けられました。それぞれの思いが最大限お客様に伝わるよう寝る間を惜しんで考えました。
宇賀あるままBASEは「身近なことから社会課題を知り、考え、行動する場」、あるままOYAKOは「孤育てをなくし、一緒に子育てを楽しむ場」というコンセプトですね。
三浦「あるまま」は弊社の創業者、松下幸之助の言葉がルーツです。「素直な心とは、一つのことにとらわれずに、物事をあるがままに見ようとする心。そういう心からは物事の実相をつかむ力も生まれてくる」。ネットで着飾ることで苦しくなってしまう現実もあります。あるがままの自分で、あるがままに人も世界も見ていきましょう。しんどいときに助けてと言える関係づくりを目指しています。
藤本幸之助さんの言葉だったのですね。素敵な名前です。
三浦大阪の玄関口といっても、人に入ってもらわないといけません。でも家電を買わされるんじゃないか、アンケートを書かされるんじゃないか、そういう空気ではダメ。まずは楽しんでもらおう。人に寄り添い、人を大事にしよう。ここで良いことがあったら人にも家族にもやさしくなる。そんな幸せの連鎖を起こそう。パナソニックがこんなことをやっていると知ってもらい、いつかモノを選ぶときに思い出してもらえばいい。ブランド力、認知力を上げることがコーポレートショウルームとしての役目で、地域とつながる必要性を感じました。
宇賀この辺りは都会すぎて、親子の遊び場も少ないし、貧困や虐待の話も漏れ聞きます。
三浦地域の社会福祉協議会と連携し「フードドライブ」やシニアの方と子どもをつなぐイベントなどを実施しています。お母さん大学との「折々おしゃべり会」では常連さんほか毎月新しい顔ぶれでにぎわっています。子どもを傍らに遊ばせ、お母さん同士が新聞を折りながらおしゃべりを楽しみます。自然と見えない絆が生まれ、心のよりどころになっていると感じます。
藤本ただ場所があればいいのではなく、誰がどんな気持ちでもてなすかが重要です。
宇賀本当にそうです。人に会ってホッとするために来るんです。靴を脱いでゆっくりしてほしい、おむつ交換も授乳もできるよう給排水も絶対に必要と、会社に無理を通したとおっしゃっていましたね。
三浦梅田で買い物!と張り切って出てきたものの人混みで子どもはギャン泣きです。「早よ帰らなきゃ」と焦り、「来なきゃよかった」と後悔する…そんな負のループが痛いほどわかるので、親子で寛げる場所をつくりたかったんです。
宇賀あるままOYAKOの中にある「センサリールーム」の特徴を教えてください。
三浦音や色の変化、振動などで感覚を刺激することでリラックスでき、いつもよりゆっくりと親子が向き合える場所です。子どもたちはバブルタワーに抱きついたり、光ファイバーを動かしたり…。お疲れのお母さんも癒されています。「えほん箱」コーナーも、安らぎの場になっています。
宇賀親子のために何を置こうか…と相談を受けたとき、「みんなが笑顔になる絵本を厳選します。私たちにやらせてください」と即答しました。
三浦「お母さんがわが子に読んで、すごくよかった!という本を選んでもらっているんです」と言うと、「それは間違いないですね!」と喜んでいただています。
宇賀スタッフの皆さんも、いつも笑顔が素敵ですね。
三浦スタッフには、子どもと遊ぶことよりお母さんと話すことを優先してと言っています。子ども優先で自分を見失いがちなお母さん。でもお母さんがここで自分を取り戻し、心の充足を得られれば笑顔になれます。「親子の居場所イドバタ」の由来もそこです。
藤本NPOでもなく、大企業が取り組むのは大変です。
三浦何のためにつくるのか?なぜパナソニックなのか?社内の賛同を得るのは容易ではありませんでした。家庭に寄り添った商品づくりをしてきた当社だからこそ、より踏み込んだ活動がお客様に響くのですと言い続けました。愚痴や相談を口に出せる、靴を脱いで息抜きする、束の間のやさしい時間が、人を社会を変えることができると信じて取り組みました。それは、私自身が救われたから、娘をたくさんの人に一緒に育ててもらった「恩返し」を絶対にしたいと思ったからです。
藤本閉館はコロナの影響もあったのでしょうね。
三浦在宅勤務をする人も増え、働き方も変わってきています。人も企業もどれだけ本質で生き抜いていけるかが試される時代です。場所はなくなってしまいますが、お客様や支援してくださる方々との深く強いつながりを信じ、どこかで活動できることを模索したいと思います。そして、閉館の知らせを聞いて、代わりに場所を探してくださる方もいて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
藤本三浦さんのやってきたことは本質的なこと。効果はまだ見えなくてもたくさんの仲間や応援団がいるはずです。それにあくまで場は場です。大事なのはコンテンツと人ですから、これからどこでもやれます。三浦さんのような、お母さんたちに「寄り添える人」を育てていくことが、新たな仕事なのかもしれません。
宇賀社会や会社に向けての発信もポイントですね。
藤本SDGsやCSVなど企業の社会的責任が問われています。パナソニックさんが地域とつながる場をつくられたことは社会的インパクトが大きいと思います。リーディングカンパニーとして時代を読みながらカタチを変えていく…これもまた必要なことでしょう。お母さん大学では来年から「仕事と家庭の両立」をテーマに情報発信をしていきます。三浦さんのご経験をお母さんたちの学びとして、ぜひ共有させてください。
三浦はい。お母さんたちが元気で活躍できる社会でなければ、未来はありませんね。
宇賀最後に、お母さん大学としてイベントをご一緒する機会をありがとうございます。
三浦1月に「あるままOYAKOフェス」を開催します。コロナは先が見えませんが、家庭という小さな社会でがんばっているお母さんたちにエールを送りたいと思います。
藤本お母さんと子どもたちで、ここをいっぱいにしたいですね。当日は私たちもおじゃまして、今日のようなお話もできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(2021年12月号特集)