泣いた、笑った、立った、眠った…赤ちゃんの仕草すべてに喜び、時にどうしたもんかと戸惑う気持ちは、どこの国のお母さんも同じ。
「赤ちゃんはみんなの宝物」。この気持ちをもとに、春めいた陽気の3月上旬、多文化共生子育てフェス2025「世界赤ちゃん祭り」がとしまセンタースクエアで開催された。会場には、様々な国の産み育てる風習や願いを掲げたパネル紹介のほか、ネパール式ベビーマッサージ、世界のじゃんけんなど、「楽しい!」で繋がる催しが続き、370人の親子や支える人たちの笑顔が咲いていた。


日本に暮らす外国人女性の産前産後サポートと多文化共生子育てNPO法人「Mother’s Tree Japan」が主催。豊島区共催。2回目となる今回は、インドネシア、タイ、中国、ベトナム、ネパール、ミャンマーやムスリム(イスラム教徒)のブースのほか、子育て支援団体「ホームスタート・わくわく」、『世界家庭料理の旅 おかわり』などの作品を持つ漫画家、多文化共生の想いをともに活動する無印良品(良品計画)なども参加した。
ネパール式ベビーマッサージでにこにこ!
会場メインステージでは、ネパール式ベビーマッサージ体験の時間もあり、参加したお母さんの優しい手で赤ちゃんもにこにこ顔!ネパールでは一日朝晩2~3回、産後に赤ちゃんのみならず、お母さんにもマッサージをする豊かな習慣があるとか。フェネグリークというスパイスを混ぜたマスタードシードオイルを温めて使うのが特徴的で、
「赤ちゃんの体も丈夫になるし、沐浴の代わりになります。咳が出る時は温まっていいし、ママもリラックスの気持ちが高まります。ネパールではママができない時は祖父母や親戚も赤ちゃんにマッサージします」と話すのは、今回の講師で、優しい笑顔が印象的なネパール人のザヤさん。在日17年目で中1女子と小5男子の子育てをしている。
大家族のネパールと比べ、異国の日本で初めての子育て。日本語がまだわからない時には、「もう帰りたいと何度も思った」という。それでも少しずつつながりを作り、いまは就学中のネパール人の子どもたちや保健所のお母さんの検診などで通訳、日本語サポートをしている。

「外国人のお母さんたちは、できないこともあるけど、知らないだけのこともある。話しかけてくれたり、教えてくれるとすごく嬉しいです。言葉が分からなくても、ジェスチャーで伝えられるかもしれない。例えば授業参観に行って、何をしているのか分からず帰って来るのは本当にさみしいですから。国や文化、育ってきた環境は違いますけど、あたたかく見守ってくれると嬉しいです」と語るザヤさん。先日、山﨑が近所で偶然出会ったアメリカ人の若いお母さんに声をかけた話をすると、「本当にありがとうございます!」と、まるで自分ごとのように喜び、感謝を伝えてくれた。
「いま、自分ができることを気持ち的にやってあげたい」。人々の心の架け橋にもなっている。
「同じってうれしいね。違うって楽しいね!」
産前産後と一言で言えども、それぞれの国や宗教によって、多様な文化がある。会場に飾られたパネルには、どれも赤ちゃんやお母さんの健康、幸せへの願い。日本の親子も足を止めて見入るなど、心温まる空間が広がっていた。その一部を紹介したい。

ベトナム
「掴み取りで未来を占う」
1歳の誕生日の時に行う儀式で、銀の皿の上に食、美、学などそれぞれに関するものが置かれ、それをどの順番で赤ちゃんが手にするかによって、その子の本質や性格、気になることを診断する。
「みんなで祝い、運を分け合う」
生後1ヶ月と1歳の時に、お披露目や無事に過ごせたことへの感謝を込めて、ごちそうを作って盛大にお祝い。60〜70人の親族・友人・知人を招く家もあるとか。訪れた人たちは、赤ちゃんの良い運を分かち合うために赤ちゃんを抱っこする。
大塚マジスト・日本イスラーム文化センター
イスラム教徒の子育てでは、生まれた直後に、様々な祝福の習わしがあるという。
「アザーン」
出生後なるべく早く、父親や家族の長老により、赤ちゃんの右耳からアザーン(モスクから流れる礼拝へと誘う呼びかけの言葉)を聞かせる。
「タハニーク」
ムスリムにとって、なつめ椰子(デーツ)は欠かせないもので、その実を柔らかくし、誕生直後に新生児の口蓋にすり付ける。これは日本であるK2シロップに通づるものがあるとか。
ミャンマー
「出産時に家族全員でお経」
「イン グ リ マ ラ・トゥン トウ」と家族みんなでお経を唱える風習。お母さんが出産している横で夫、両親、祖父母みんなでお経を唱えると無事に出産できると言われているという。
「赤ちゃんにまつわる言い伝え」
・頭は精霊が宿る神聖な場所だとの言い伝えから、頭をなでるのは良くないとされている。代わりに「かわいいね」と声かけ。
終始にぎやかなイベントの最後には、Mother’s Tree Japan事務局長 坪野谷知美さんからのメッセージ。

「赤ちゃんが笑ったり泣いたり、お母さんのおっぱいが出ないといった時は、あ、同じ同じ。わかるよって嬉しい気持ちになると思います。逆に、この人と私は違う価値観や文化があるなと知った時に、楽しいなと私は思うんですね。違うから嫌だな、じゃなくて、同じだと嬉しいな、違うと楽しいな。そんな風に思って、赤ちゃんを中心につながっていけたら、世の中って平和になるんじゃないかなと思いながら活動しています。これからもぜひ、みんなで楽しく繋がっていきましょう」

同団体では、妊娠、産後、子育ての対面・オンライン相談や指差しによるコミュニケーションツールの開発、病院や保健所、届出などの付き添い、日本語教室や多文化共生のイベント交流会など、多岐に渡る内容で外国人のお母さんたちや家族を支援している。ニューヨークでの子育て経験がある古原愛子さんは「アフリカから来ているお母さんの病院の付き添いなどをしました。心で寄り添うサポートを少しでもしたい。私も参加して助けられている気持ちです」と明るく話してくれた。
まずは楽しいことをきっかけに
もともとUAEやアメリカ在住経験がある私は、異文化のなかで始まった子育てや交流を楽しみつつも、産後うつになった時も。それでも現地のスーパーで、地元の女性にかけてもらった優しさなど、13年経っても忘れられない思い出として残っている。
日本に戻ってからも外国人のお母さんたちは慣れない土地でどうしているだろう?という思いは、いつも心のどこかに。だがイベントに参加して、きっと苦労はありつつも、子ども思いなお母さんたちの笑顔に自然と心がはずんだ。言葉や文化、宗教の違いがあるからこそ、彩り豊かな世界の子育てを知ることができた。
楽しいことをきっかけにするということ。それは小さなことでも、未来をつくる子どもたちにもつながっていくかもしれない。難しく捉えすぎず、「こんにちは」から始めたい。そこから何かが始まるかもしれないから。
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Mother’s Tree Japanでは「国籍に関係なく、同じ国にくらすすべての女性が安心して新しい命を迎えてほしい」という想いから、包括的なサポートを全国に普及できるよう、4月16日からクラウドファンディングを開始予定で、応援を募っている。https://mothers-tree-japan.org

素晴らしいイベントですね。
お母さんの笑顔で、世界がつながる。
日本で子育てをする海外の方と、こうしてつながることも素晴らしい。
お母さんの悩みも、お母さんの喜びも、万国共通!!!
山崎さんが、海外で子育てを経験し、大変な時期もあったからこそ、皆さんの気持ちがわかるし、共感できる。
そんな、マザージャーナリスト山崎恵さんの思いがいっぱい詰まったレポートだと思いました。