お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

いま、できることを一つずつ

ウクライナ侵攻が始まって1ヶ月半が過ぎた。ニュースで観る過酷な現地情報。目を覆いたくなる現実が、いま、同じ時代を生きているわたしたちの元にも届く。日本でも避難民の受け入れが始まったり、状況は刻々と動いている。

ルーマニア・北部のクルージュで、ウクライナから避難してきた親子を支援する活動を2月24日から続けているパトリチア・クドウさんに再び話を聞いた。(インタビュー4月上旬)

「パトリチアさん、いつも忙しいのにありがとうございます。疲れてないですか?」

「大丈夫ですよ。昨日は、ボランティアのウクライナのママたちと一緒にオペラを聴きに行ってきました。ウクライナのオデッサから避難してきた有名なオペラ歌手のチャリティコンサートがあって。みんな最初は遠慮していたけど、久しぶりにママたちもおしゃれして、本当に心の栄養になった。ドレスも寄付品のなかから探してね。最後に『ありがとう』って何度も言ってエモーショナルになってたよ」

ビデオ通話先であるドネーションセンター(寄付会場)には、多くの子どもたちのかわいらしい絵と数えきれないほどの名簿リストが貼られていた。名簿にあるのは、主にウクライナのお母さんたちの名前。2月24日以来、避難してくる人の数は増え続け、彼女が代表を務めるNGOだけで現在1000近くの避難家族がおり、住居・学校探しや日常生活品のほかに、一人100ユーロを援助しているという。

「いま、できること。ライフプランを小刻みに」

「最初はすぐ戻るつもりだったし、遠慮して受け取らない人もいた。避難民になった経験もないし、自分たちで生活をできていたから。でもここルーマニアで生活をするために、ママたちも嘆いたり、不安や不満を口に出すこともあるけど、話に寄り添いながらも、『じゃあ、これからどうしようか?いまの暮らしをどうやって立てていく?』ってそちらの方に意識が向くように声をかけて一緒に考えています」

ウクライナで難関大学を出て、小児科医として働いていた女性。戦争が始まると、思いもよらず国を離れ、仕事もできない。自分のこれまでのキャリアがいまは生かせない。でも支援されるだけでなく自分にいま、できることをしたいと、パトリチアさんの助けもあり、ルーマニアで親しまれているヴァレーニキという餃子のような食べ物を作って、支援したいルーマニア人グループの人々に販売しているという。

弁護士をしていた別の女性。ズンバというダンスを趣味で続けていたので、いまは1、2時間のアルバイトだが、フィットネスジムで働いているという。

母国に残った家族の無事を案じたり、リアルタイムで入ってくる戦争のニュースに苦しみを抱えながらも、ウクライナのお母さんたちが、そう動けたのは、パトリチアさんを中心とした支援の人々、そして居場所があったからだろう。

「隣に座ってもらうことが大切なの」

彼女たちが始めたドネーションセンターはいま、日用品やお金を受け取るだけの場所じゃなくて、人と人が集まる心のケアセンターにもなっている。ただ隣に座り、寄付で集まった服を一緒にたたむ。ただ一緒にニットを編む。そういうきっかけのなかで、少しずつ心がほぐれ、遠慮がちだった人たちがゆっくりと本心を口にするようになる。

「娘がバイオリンを習っていたけれど、戦争でできなくなっちゃった。娘が忘れないうちに、また弾かせてあげたいんだけど、バイオリン、誰か貸してくれるかしら」

そう話したあるお母さん。パトリチアさんたち支援者は、そういう話に耳を傾け、クルジュに広がったコミュニティを通して、不要になったバイオリンを探す。「いま、できること」に意識を向け、今日もドネーションセンターに人が集まる。

「日々の暮らしのなかで、欲しい物が色々あったけど、戦争で攻撃を受けて、何が一番大切かって、真っ先に我が子を抱いて逃げてきた人たちがいて。ただ、暖かい部屋でベッドで子どもたちと眠れれば安心で。わたしたちは援助活動をしているけど、そういうライフレッスンにいつも気付きをもらってます。自分の心を大切に、ママたちが子どもたちを元気に育てることが最も平和のためになる。一緒に意識を向けていきたいですね」

彼女は使命感だけでなく、いつも人として、母親としての愛情とユーモアと思いやりをもって接しているからこそ、人々は集まり、本音を開いていくのだろう。一方で、インタビューの後にも日々、様々なことが起こり、人々と悲しみや痛み、疲れを共にする時もあるようだ。

長期化が見込まれる支援活動。現状では、彼女たちの活動資金は寄付や有志からの善意にとどまっている。子どもたちの教育、心のケアなど、支援の内容は多岐に渡っている。

支援する人を支援する

いま、日本でも、彼女のように、現場の最先端で支援活動をしている市民団体やボランティアグループを支援する活動が始まった。

WDRAC(戦災復興支援センター)「支援する人を支援する」一般社団法人

3月16日に立ち上がり、SNSのFacebookなどを用いて、各方面で活躍できる人たちが知識や情報を共有し合って活動を進め、4月21日に寄付の受付けを開始する。支援は直接彼ら、彼女たちの活動に役立てられる。

「この状況は長く続くでしょう。不特定多数の人に手は差しのべられなくても、日本でもできることをしていきたい。これを読んでくれている子育て中のお母さんたちは、家族やいま、目の前のことをまず大切にしてほしい。そのうえで、知ることも支援の一つだから、いま何が起きているのか、見続けてほしいと願っています」と代表の長尾彰さん。

心に潤いを

オペラコンサートに行った話。バイオリンを弾かせてあげたいという気持ち。こういう時こそ、心に潤いをもたらすものは大切なんだと実感する。時には美しい音色、景色、美味しい料理に癒され、人々を支援する彼女の心も守られていきますように。インタビュー中、我が子たちの話をしていた時が一番笑顔が輝き、母ごころが溢れていた。

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「ママ!見て!!二重跳びができるようになったー!こっちに来て」と玄関で呼ぶ娘。夫と息子がリビングでじゃれあう姿。お味噌汁の香り。しょっちゅう小噴火もあるが、我が家の平和を見つめると、それはそこかしこにあると気づく。そしてそれを好きだなぁと思う気持ちは、同じ土俵では語れないものの、ウクライナの人々やパトリチアさんたちの想いとかけ離れてはいないのかもしれない。

いまを大切に、できることを一つずつ。支援の輪が広がっていきますように。

14件のコメント

援助活動をライフレッスンという、そういう感覚、言葉だけではなく心の底からそう感じられるお母さんになりたいなぁと、思いました。
恵さん、いつもありがとうございます。
本当に大切なことばかり。

宏美さん
こちらこそ、ありがとうございます。彼女と話している時に、ウクライナのお母さんたちが
よくドネーションセンターに出入りして途中で話しかけたりしてるんですが、
受け答えがとても対等というか、いい関係性が伝わってくるんです。
何かをしてあげてるんじゃなくて、できることをしているっていう感覚、
感性、出来事に対する気づき、そういうことにわたしもライフレッスンをたくさん
もらっていて、それを少しでもお伝えできればと思いました。
「今日はこんなことがあって!」
「思わず笑っちゃったんだけどね」っていう普通のお喋りをしている感じの時も
よくあるんです。大変なはずなのに、そのバランスがすごい!

天野さん、いつも読んでくれてありがとうございます!
どこの国のお母さんも想いは同じ。それが伝わってうれしいです。
避難民支援の話だけど、子育てや母として、人としての生き方を伝えてもらってる気がします。

恵さん。大事な発信をありがとうございます。

ほんとに。いま、できることを一つずつ。

先日、ご近所の方にひまわりの種をもらいました。
「ロシアとウクライナの国花はなんだと思う?」と。
どちらもヒマワリなんだそうです。

4月に植えると7月には大輪の花を咲かせるヒマワリの種。
子どもたちと松葉荘に一日も早く終戦することを願いながら植えました。

一日も早く、世界中のお母さんが安心して子供を育てられる社会になりますように。
それがどれだけ幸せなことなのか。それがどれだけ大切なことなのか改めて感じさせてもらっています。

彩さん、ありがとうございます。色々あっても、いまある生活がどれだけ大切で幸せなものなのか、気づかされる日々。
ひまわりの種を植えたんですね!夏に咲いたらぜひ写真を見せてください✨パトリチアさんに送ります!

大事なことに気づきだす人が、お母さん大学の中から出てきたことを嬉しく思いました。

忙しさの中から大事なことが落ちていく時代が長く続いてきたからです。

今は限られた時間で何を感じてどう生きていくのかの時代です。

人間の裏表について学ばされている時代です。
自分が正義だと思い込んでいる人間同士が醜い争いをしているのだとわからせてもらっています。
正義は人の数だけあるということをね。

ジャッジするより自分はこれができるということが分かったらいいのにね。
そこに気づいている記事をありがとうございました。

池田さん、読んでいただきありがとうございます!
今回は難しいテーマの一端に触れて書いているんだという自覚はあり、
時に緊張しますが、そうですね、ジャッジするより自分に
できることを一つ一つ。そういうことを大切に伝えていきたいです。

支援をしている友人は何を感じて大切に思って発してくれているのか、
わたしは何を大事に思ってそれを受けとっているのか。それが伝わるといいなと
自問自答しながら記事にしていました。

例えば、バイオリンを弾かせたい話。もしかして贅沢なことに思われるかな?と、
一瞬消そうかと思いましたが、1日寝かせて考えて、いやいや、こういう時こそ
心の潤いを大切にしないと、となぜか涙が出てきました。
なかなかすぐには書けませんが、この取材を通して、わたしも気づきをたくさん
もらっています。お母さん大学という書く場があって感謝しています。

いつも大事な記事をありがとうございます!
毎回とても、考えさせられます。
ニュースをみるよりも、リアルな現実を知ることができてます。
ほんと、どこの国のお母さんも、我が子を思う気持ちは一緒ですね。
一緒なのにどうして争わなければいけないのか。
我が子にもこの戦争をどう伝えればいいのか分かりません。
伝えなければいけないと思っているのですが。
でも、私自身も最近は苦しくなるので、ニュースを見れずにいます。
知らなきゃいけないと、分かっているのに逃げてしまいます。
パトリチアさんに申し訳なく思いました。

脇門さん、こちらこそ、いつもコメントありがとうございます!
わたし気にしいなのに書いていて(笑)、実は脇門さんから「読んで気持ちが落ち着いた」とか「ホッとできた」ってコメントを頂けるととても嬉しくなるんです。あー書いてよかったかもって。

わたしもニュースあまり見ていません。苦しくなります。大体ニュースで「軍事戦略が変わった模様です!」
って言われて、専門家に解説されても、その戦略知る必要があるのか?って、ザワッとします。逃げていいと思います。
パトリチアさんに申し訳なく思う必要、全然ありませんよ〜!彼女がいま、できることをしてくれていて、わたしたちのいまできる大仕事はまだまだ「お母さん!」って求めてくる我が子の子育てで。
だからお互い日々を大切にしましょ♡

だから、わたしも自分のペースで。あと何回くらい書けるのかわかりませんが、脇門さんがどこか安心してお子さんと話せるように、書けたらいいなと思います。
わーデカイこと言っちゃった!気にしいのクセに(笑)

また話せたらうれしいです^^

マスコミの情報ではなく、こうして、リアルな情報が、一番大事だと思います。

そして、母たちの力も感じました。

子どもを守るという使命があるから、負けられません。

山﨑さんの発信が、必ずウクライナの皆さんのために役立つと思います。

これからも、よろしくお願いします。

藤本さん、ありがとうございます。
リアルな情報で、人々の存在や思いを近くに感じられたらと思います。

お母さんたち、すごいです!
わたし、MJプロ養成講座で「お母さんはすごい!」って聞いた時に、
自分に当てはめて、うーん・・・どこがすごいんだろう??って
まだ実感が湧きませんでしたが、今回この取材を通して、心から

「お母さんはすごい!!」って思います。

お母さん大学で、お母さんの視点で・・・だから書けました。
みなさんが読んで受け取ってくださって、書く勇気につながりました。
ありがとうございます。

もう一度コメントしたくなったことを書きます。

大人の争う姿を子どもに見せたいか?を問うてみてほしいのです。
テレビで流される映像を、垂れ流されていることについて、親である、ましてや小さい子どもを
持つお母さんたちに言いたいことです。

戦争はずっと勝てば官軍の論理でまかり通ってきたことを今一度私たちは知ることです。

勝つためには嘘さえつくのが世界の常識なのです。

日本人では考えられないのがこのことなんです。

私は日照東照宮に言った時、「見ざる、聞かざる、言わざる」の意味を教えられてうなりました。
幼い子には柔らかい感性に何を見せ、聞かせ、言うのかがその裏側にあるのです。

コメントありがとうございます。その通りだと思います。我が家も子供たちが怖がりなのも
あり、テレビのニュースはほとんど家で流していません。テレビをつけっぱなしにしている
ご家庭がどのくらいあるのかわかりませんが、ずっと聞こえてきていたら、それは確実に
子どもたちに影響してしまうし、育てている私たち親の心にも影響を与えます。

だから、一番最初に書いた記事でも支援している友人自身が言っていたように、
「ニュースは5分にして、あとは観るなら子どもたちとアニメ番組を見て」って
いう感覚が大切なんだと思います。なかったことのように触れないのも違うかな、
とわたしは思いますが、触れすぎる環境を作るのもまた違うかと思います。

柔らかい感性、本当に大切ですね。大人もそこに立ち戻れるように、
わたしの場合はこれから図書館に行って絵本をまた借りてこようと思います。
地域の読み聞かせの会にも参加していますが、
声に出して読むと心がほぐれますし、絵本の力に優しさをもらっています。
最近、我が子たちは少し大きくなり、自分で好きな本を読むようになり、読み聞かせの時間が
減りましたが、わたしのためにも聞いてもらおうかな。

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ABOUT US
山﨑恵
肝っ玉母ちゃんに憧れる繊細母ちゃん。アメリカで子育てをスタートさせるも、第二子出産後に産後うつになる。あの頃の自分にも、いま同じ思いをしている お母さんにも言ってあげたい。「いろいろあるけど、それでも大丈夫だよ」って。数年前、夫の実家の横須賀にあるカフェでお母さん業界新聞を手にとる。 配ってくれた人がいて、ここにたどり着いたご縁に感謝! このままの「お母さんであるわたし」でペンを持ち、人と社会とつながりたい。いまは地元埼玉県川口市で子育て・自分育ての根っこを下ろし中。 最近はまっているお灸でぽかぽかするのが至福の時。子ども/小6男、小3女