8月12日(土)、ワーホプレイスとらんたん(横浜みなとみらい)で開いた第1回「ウミダス会」。
「変わりゆく病院」と題したお話のスピーカーは、佐藤譲さん。国民の健康と医療について考え、実践されている中から、お母さん業界に直結する話題を広くわかりやすく、かいつまんで話された。
成育医療の
研究と臨床を行う
国立成育医療研究センターとは、受精・妊娠にはじまり、胎児、新生児、乳児、幼児、学童、思春期、大人へと成長・発達し、次の世代を育む過程を総合的かつ継続的に診る「成育医療」を行う専門機関。
また、病因・病態の解明や克服のための研究を行うとともに、健全な次世代を育むための社会の在り方について提言。国レベルで高度な医療を築いていく中心的存在である国立高度専門医療研究センターとして、先進的で安全・安心な医療を社会に提供する役割を担っている。
病床数は490床、外来患者(一日平均)数は約1000人と日本最大規模を誇る。
母体・胎児集中治療管理室(MF-ICU)や新生児集中治療室(NICU)を備えた「総合周産期母子医療センター」として、リスクの高い妊娠に対する医療を提供。年間分娩数は2200件を超えている。
また、全国15の小児がん拠点病院を取りまとめる小児がん中央機関として、日本の小児がん診療をリード。アレルギー疾患の中心拠点病院として、診療と臨床研究を推進。肝臓や腎臓、心臓移植の実施ほか、ヒトのES細胞からつくった肝細胞移植の臨床試験に世界初で取り組むなど、世界トップレベルの技術を駆使し、成育医療にあたっている。
病気と闘う
子どもと家族のために
病気の子どもと家族が利用できる「もみじの家」は、医療型短期入所施設。重い病気を持つ子どもを在宅でケアし、育てることができる社会をつくることを目的に、2016年に成育センターが開所した。
こんな施設もある。病気の子どもに付き添う家族がゆったり過ごせる第二のわが家「ドナルド・マクドナルド・ハウス」(公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン)。せたがやハウスは、全国に12か所ある施設の先駆けとして2001年に誕生。治療が優先される一方で、家族を含めて支えようという趣旨に賛同する多くのボランティアに支えられている。
少子高齢化から
無子高齢化へ
2022年の合計特殊出生率は1・26で過去最低を記録。そんな中、徳島・宮崎の健闘が明らかになった。理由は、働きながら子育てしやすい環境を提供している点との分析。
徳島県では「産前・産後サポート事業」を、宮崎県では「女性の賃金水準向上」を推進しており、両県とも女性管理職比率も全国平均を上回っている。つまり、出生率を高めたい自治体は、働きながら子育てしやすい環境をどう整えるかがカギというわけだ。
人口学上、50歳女性に子どもがいない場合を「生涯無子」というが、2005年生まれの女性の場合、最大42%に達すると推計されることがわかった。英米やドイツでは、仕事と子育てが両立しやすい環境が整い、「少なくとも1人」は子どもを持つようになっているとの見方もある。
2022年10月に始まった、子どもの出生後8週間以内に4週間休める「産後パパ育休」制度(育児・介護休業法)を知っている人は3割という。厚生労働省は男性の育休取得率の公表義務を課す企業の対象を、現行の従業員1000人超の企業から300人超に拡大する予定。2024年にも育児・介護休業法の改正を国会に提出する動き。これによって4000社から1万8000社程度に増えることとなる。
こども家庭庁と
プレコンノート
今年4月に発足したこども家庭庁は「こどもがまんなかの社会を実現するために、こどもの視点に立って意見を聴き、こどもにとっていちばんの利益を考え、こどもと家庭の、福祉や健康の向上を支援し、こどもの権利を守るためのこども政策に強力なリーダーシップをもって取り組みます」とある。成育センターも、これに大きく関わっている。
福原遥&深田恭子W主演のTBSドラマ『18/40(~ふたりなら夢も恋も~』に登場し話題となった「プレコンノート」。プレコン=プレコンセプションケアとは、成育センターが提唱している妊娠前からの健康管理のことで、若い男女が将来のライフプランを考え日々の生活や健康と向き合うこと。次世代の健康にもつながるとして、近年注目されているヘルスケアだ。
女性の健康センター
仕事と健康の両立を後押し
女性の心身の状態は年代によって変化する特性があり、長期的、継続的かつ包括的な視点に立って健康の増進を支援することが必要だ。
政府は6月に成育センターを「女性の健康」に関するナショナルセンターとして位置づけた。全国の医療機関・研究機関の司令塔役を担い、最先端の治療と研究、情報提供ができるしくみを構築、仕事と健康の両立を後押しする。
医者不足を解決する
地域の医療連携
2022年、1741市町村の2割が、1時間以内に行ける病院がない「無医村」「準無医村」に該当。さらに30年後には4割に達する見込みだ。また2024年には、医師の年間時間外労働時間の上限が960時間か1860時間(救急医や研修医)に設定される。
かつての貧しく身を粉にして働く「赤ひげ先生」をシンボルとしていた医師は、今は昔。医師たちは今後ますます診療科内の専門分野に特化するようになる。
医療現場の人手不足が深刻化する将来は、症状によって病院を使い分けていく必要がある。まずは地域に信頼して在宅診療が受けられる「かかりつけ医」を見つけることが重要だ。
国立成育医療研究センター
東京都世田谷区大蔵2-10-1 TEL03-3416-0181
https://www.ncchd.go.jp/hospital/
成育基金(アイノカタチ基金)国立成育医療研究センターでは、より充実した成育医療に関する調査、研究並びに医療の提供を行っていくため、企業や個人に広く寄付金等を呼びかけています。詳しくはコチラをご覧ください。
ウミダス会を終えて
第1回ウミダス会は、有意義な時間になった。参加者は12名。医療、マスコミ、会社経営者などさまざまな業界人が、女性の体と社会の関係について真剣に学んだ。
少子化や育仕両立問題など国が抱えている課題に、医療という視点から考察し、現場をつくっている佐藤さん。諸種の問題はネットや新聞で見聞きしているものの、これほど複雑に絡み合い、持続不可能な時代をつくっているのだと、改めて実感した。
日に1000人の患者を診る成育センターが地域医療を推進している意味、症状や体の一部だけを見るのではなく、ひとりの人間の心と体に寄り添う医療。研究と臨床かつ社会全体の問題、生き死にという人間の尊厳に関わる成育センターの役割は大きい。
話を聞いていて私は、医療の最先端を走る佐藤さんに愛とぬくもりを感じた。今の医療に必要なのは、「人間とは何か」を考える哲学なのか…。
人類は、かつて海から誕生した。であれば私たちお母さん業界も、30年、50年先の未来に何ができるのかを本気で考え、ウミダス時なのかもしれない。
(ウミダス会担当・藤本裕子)
※ウミダス会とは、子どもたちの未来のために、母の視点や想いをカタチにしようと集う有志の会。
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