お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

ひとり親、ふたり親ではなく、7人親へ ~血縁のない大家族という幸せの選択~

福岡県久留米市にある一般社団法人umau.(ウマウ)が運営する居場所「実家よりも実家-じじっか-」。母子家庭の母たちが、みんなで子育てできる拠点をつくろうと2020年にスタート。今では、「じじっかファミリー」として270世帯が所属。血縁関係なく大家族として悩みや負担をシェアし、一人でがんばりすぎず楽しく子育てできる環境をつくっている。この5年で見えてきた社会課題や本当の豊かさについて代表の中村路子さん、メンバーの高橋那月さん、石田誠さんに話を聞いた。(MJ・池田彩)

左から、中村路子さん・石田誠さん・高橋那月さん

 

母親が一人で子どもを育てるなんて無理!

シングルマザーとして息子2人(大2、高3)を育てています。小さい頃から保育園の親同士で頼り合い、なんとかやってきました。でも、次男が小5で不登校になった時、地域の人から親の責任だと言われ、それは少し違うと感じました。

意思がしっかりあり、親の話なんて耳に入らない、でもまだ子どもという複雑な時期。彼には親じゃない大人の関わりが必要だと思いました。違う世界、環境を見せてくれる人が出てこないかと本気で願っていました。

きっと、こんな風に思っている親は私一人ではないはずです。これが「じじっか」の掲げるビジョン「ひとり親、ふたり親ではなく7人親へ」という、血縁のない大人と子どもが関わりみんなで子育てする場所や仕組みをつくるきっかけになりました。(中村談)

じじっか・おおむたの様子

「いってらっしゃい」「おかえりなさい」の関係性

「じじっか」は実家のようにホッと一息つける居場所です。金・土・日は無料でごはんを提供したり、行政と連携して必要な家庭に食事の配達をしたりもしています。

ほかにも、親の困り事や、あったらいいねをシェアすることで、家の中で一人必死にがんばることをやめ、みんなで楽しく育ち合いができる環境づくりをしています。

婚姻届けを真似してつくった「ファミ婚届け」を提出してもらえれば誰でも家族になれるので、今は母子家庭だけではなく、独身の方や子どもがいない世帯、赤ちゃんから大人まで、環境も年代もいろいろな人たちが所属しています。

私は独身で子育て経験もありません。宮城県からの移住者ですが、初めて「じじっか」に来た時に、「気を遣ったら怒るけんね!」と言われたのが衝撃でした。これまで気を遣わないで怒られることはありましたが、気を遣って怒られたのは人生初。これが「じじっか」です。

みんなここに来たら家族。だから、誰が来ても「おかえり」、出かける時は「いってらっしゃい」と声をかけます。(高橋談)

意思決定ができない子どもたちのためのプロジェクト

この5年、多感な年齢の子どもたちとたくさん関わってきて、3つの共通する課題が見えてきました。
①選択肢が少ない、②親の意見が強い、③将来に希望を抱けない。

自分で意思決定ができない子が多く、これは将来大きな問題になると感じました。そこで子どもが自分の意思で頼り合いができ、成長する仕組みをつくろうと考えたのが「自分流計画3人4脚プロジェクト」です。

15歳から25歳までの10人の若者を対象に、8か月間スタッフが伴走します。その子の心の声に耳を傾け、やりたいことを実現させていきます。思春期時代に積み上げにくい「人への伝え方」「気持ちを再確認して自分と対話すること」を学びます。自分はどうしたい? どう思っている?と、親ではない大人がその子と向き合い、一人ひとりの可能性を信じ続けるプロジェクトです。

1年で10人、10年で100人。この子どもたちが、次の世代をつくると信じています。(中村談)

感動の瞬間に立ち会えるななおや会メンバー

3人4脚プロジェクトでは、スタッフやメンバー同士の関わりだけではなく、月5000円でサポートしてくれる地域の大人「ななおや会」会員を募っています。

「ななおや会」に入るとオープンチャットで日々の様子を共有したり、月1のオンライン交流会や卒業式に参加できたりします。子どもの成長に直に関われる貴重な機会だと地域の社長や大学の先生、NPOの代表などが参加。久留米以外の方もいます。

「何を話したらいいのかわからない」と言っていた子が、交流会で自分と真剣に向き合い自分の言葉で発表をする。その成長の様子を一緒に感じる瞬間は感動しかありません。子どもたちにとっても、たくさんの人から娘や息子として関わってもらえることが一つの幸せや豊かさにつながります。ご興味ある方には説明会を随時開催しています。(石田談)

幸せの一つの選択肢という「じじっか」の価値

社会には「母子家庭=貧困」というイメージが強くあります。

正直、お金に余裕なんてない。でも、そもそも貧困って何だろうとも思うんです。「じじっかファミリー」でたくさんの人たちと一緒に時を過ごし、いっぱい話をして、その子の考えや背景を知る。すると、ちょっとした成長を感じるだけで感動します。わが子と同じくらいうれしいし、何にも代えがたい幸せを感じます。これは海外旅行に行くことよりも、お金持ちになることよりも大きな価値だと私は思っています。

世の中には自分の承認欲求を満たそうと必死になっている大人たちがたくさんいます。それこそが心の貧困じゃないでしょうか。押し付けではなく、一つの幸せの選択肢として「血縁のない大家族」というのもあると伝えていきたいです。(中村談)

一般社団法人umau.実家よりも実家ーじじっかー
福岡県久留米市梅満町32-4-2F(久留米食糧エルピー電化内)
0942-48-0908 umau.kurume@gmail.com

公式サイト https://umau-llc.localinfo.jp/
ななおや会とは https://umau-llc.localinfo.jp/posts/53833117?categoryIds=3126544