お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

 水上勉の母たちへの一文

はじまりは、命の大切さを伝える一匹の蛙の物語からだった。童話『ブンナよ、木からおりてこい』(若州一滴文庫)は、文豪・水上勉に、数ある小説の中で、後世に残したい一冊はこれだ。と言わしめた作品。

物語の中に、明日にでも鳶のえさになろうかという蛇や鼠や蛙たちが、捕らわれの身同士で母を自慢し合うシーンがある。

それぞれが母を語ると、なんとも言えないやさしい空気がその場を包む。数時間後には鳶のえさになるやもしれぬ状況下で、母を感じる生き物たちが響感し合うことのすごさ。しかし次の瞬間、蛇が鼠に食いついた。残酷だが、生きていくということはそういうこと。どんな生き物にも母親がいて、子どもに命の大切さを伝え、生き様を見せては死んでいく。

果たして人間はどうだ?

水上勉は、9歳で口減らしのために京都の寺へ出された。母を恨みながらもずっと母を思って生きてきた。それゆえ作品は、どれも母の匂いがしてたまらない。

ブンナのあとがきに「母たちへの一文」と称して、世の母親たちに伝えたい思いが記されている。母から子へ、この物語を話し聞かせてほしいという願いもだ。

2008年から、本紙お母さん業界新聞の表紙に「母たちへの一文」というコーナーをつくり、各界著名人に寄稿を依頼。100人を超す方々が、母たちへの思いをしたためてくれた。久々にブンナを読んでみたくなった。

(青柳真美)