2017 年、九州北部豪雨の水害をきっかけに、
閉院していた産婦人科を日本初の「母子避難所」として提供し、支援活動に参加。
その役割もひと段落した今、新たな母子支援拠点として、
「産前産後ケアハウス きずな」を新スタート。
「朝倉を子育てのまちへ」と熱く語る、松元久美子さんを取材した。
(マザージャーナリスト近藤美和子)
産前産後ケアハウス きずな
朝倉市来春328-1
朝倉母子支援センターきずな内(旧 松元産婦人科医院)
TEL 090-1084-3500
受付時間:10 時~ 17 時 休日:土日祝
日本初の「母子避難所」として
2017 年7 月5 日、九州北部豪雨で、朝倉市は観測史上初の記録的雨量となり、膨大な被害を受けました。
今も行方不明者2 人を残し、尊い犠牲者33 人、被災直後は約1200 人が、避難生活を余儀なくされました。
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朝倉市議会議員の大庭きみ子さんが、
子ども連れの母親が避難所で肩身の狭い思いをしているところを目の当たりし、
「母子ともに安心して過ごせる場を、一刻も早くつくりたい。
松元産婦人科を使わせてもらえませんか?」と駆け込んで来られました。
2013 年に院長である夫が亡くなり閉院。
そこへ、2016 年4 月に熊本地震が起こり、
先輩の助産師より母子避難の受け入れができないかと連絡がありましたが、エアコンなどの設備に不安があり、
その時は原鶴温泉の旅館へ受け入れをお願いしました。
次の要請に備えようと思い、すぐに院内を点検・整備したところ、
翌年、朝倉の被災があり、今度こそ役に立ちたいと思いました。
豪雨発生から25 日目、「母子の避難所」「女性ボランティアの宿泊・拠点」「相談事業」の3 本柱で
「朝倉災害母子支援センターきずな」をスタートさせました。
里帰り出産で反復帝王切開後の、生後61 日の乳児と2 歳児を抱えたお母さん。
義兄宅に避難したものの、気遣いから産後うつになってしまったお母さん。
井戸水が濁り入浴もできず、赤ちゃんを清拭するしかなかったケースなど、いろんな境遇の方に出会いました。
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次のステージ「産前・産後ケア」
これまでは、朝倉市の委託を受け、助産師として、
赤ちゃん訪問や子育て支援にも携わってきました。
核家族化や地域のつながりの希薄化、両親の就労などで、
孤立した子育てをせざるを得ない家庭が増えています。
産後はホルモンの変化もあり、心身ともに不安定にもなります。
出産から早い時期にお母さんに寄り添うことや、
孫育ての情報提供も必要と考え、「産前・産後ケアハウス きずな」をスタートさせました。
継続性を考え、有料での取り組みになりますが、
お母さんたちの駆け込み寺になったらいいなと思っています。
「娘が育児で悩んでいて…」と訪ねて来たおばあちゃんもいらっしゃいました。
最初の話に戻りますが、完全復興にはこの先10 年、
20年とかかるでしょう。心のケアもまだまだ必要です。
自分たちのことは忘れられてしまったと、孤立感を持つケースもあるので、
「私たちは見守っているよ」とシンボル的に在ることも大事なのです。
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お母さんに寄り添って
授乳一つも大仕事。
「赤ちゃんが上手におっぱいを飲んでくれない…」
こうした悩みを一人で抱えているお母さんに寄り添うことが、私たちの仕事。
赤ちゃんの抱き方や沐浴の指導、お母さんの骨盤の歪みチェックもします。
おっぱいトラブルで相談に来られた場合でも、ゆっくりお話を聞き、
必要なことはケアしていきますので、2 時間、3 時間はあっという間ですよ。
当事者であるお母さんがいっぱいいっぱいなのに、
周りの目を気にして、相談できないこともよくあるケース。
このような場合は、気づいた方がサポートしてあげることも大切です。
お母さんの悩みや苦痛を、一日も早く、少しでも軽くしてあげたい。
今この瞬間、赤ちゃんといる時間の幸せを味わうことが、何よりも大切なことです。
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つながりとgive and give
お母さんたちには、「迷惑をかけて当たり前」と伝えたい。
いずれ私も年老いて、迷惑をかける歳になっていく。
順繰りなんですよね。
それに、お世話をするだけではなく、
笑顔になったお母さんに「ありがとう」と言われ、私たちも大きな力をもらっています。
「give and give」なんです。
東日本大震災や熊本地震でもできなかった「災害母子支援センター」が朝倉市にできたことで、
1200 人以上の方が全国から視察にお見えになりました。
朝倉市は他地域に比べ、「近助力」と「ボランティア精神」が根付いている地域といわれ、
市民力を備えたまちです。
これからも、朝倉の皆さんのつながりを大切にし、
子育てのお役に立っていけたらと思います。
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助産師 松元久美子さん
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(お母さん業界新聞ちっご版Vol.62 2020年4月号 2面 ちっごのひとびと)
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