お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

MJレポート 働く女性の葛藤を描き、両立に悩む女性を応援する映画『マイライフ、ママライフ』

 

 

4月、従業員に育児休業の制度を周知し、取得の意向確認を義務付ける、改正育児・介護休業法が施行された。子育てをしながらの共働きは、妊娠・出産をする女性への負担が、どうしても大きくなってしまう。

さまざまな子育て支援の制度が充実する中、子育てを取り巻く環境は一体なぜ変わらないのか…。現代社会の働く女性の悩みと葛藤を描き、ママたちの本音に迫る映画『マイライフ、ママライフ』を鑑賞後、監督に話を聞いた。
(レポート/植地宏美)

 

映画が生まれた背景

監督・脚本の亀山睦実さんは平成元年(1989年)生まれ。映画の企画を立ち上げた4年前、令和元年に30歳を迎えた。同級生は結婚、出産ラッシュ。世代を象徴する映画を撮りたいと思ったのがきっかけだ。

「仕事も面白くなり、それなりのポジションを与えられる中、母になる選択をした友人から聞こえる声はグチばかり。SNSにあふれるワンオペへの不満、保育園の送り迎えをしながら通勤することへの悲痛な叫び…。

一方、社会では、女性活躍推進や男性の育児参加支援の動きが活発になり、メディアでも注目されていました。世の中で言われていることが、本当に私たちの身の回りにもあるのだと再認識させられました。その部分をもっと、映画として、物語として残したい。そんな気持ちが湧き上がったのです」。

亀山さんの中でこの2点がつながった。共働き世帯の現状を描くことで、社会問題を表現した。

キーワードは「家族留学」

2人の女性の出会いとなったのが、特定非営利活動法人manma(越智未空代表理事)が行っている「家族留学」という取り組みだ。これから結婚・子育てを迎える若い世代や、子育てが始まったばかりの世代が多様な子育て家庭に滞在し、子育てや子育て家庭の実態を体験するプログラム。

地域の孤立化が進む中、家族について私たちは、自分の両親(家庭)からしか学ぶことができない。子育て世帯とそれ以外の世帯が接することが極端に少ない社会で、いろいろな家族のカタチを知る機会となっている。

ママたちの思いに共感

映画制作にあたり、さまざまな家族をリサーチ。映画の中に出てくる男の子の動きやセリフ一つひとつがリアルなのは、この家族たちの協力によるものであろう。

登場人物たちの言葉や行動に込められたたくさんの感情には、働く女性たちの日々の葛藤が如実に描かれ、「あるある」のオンパレード。主人公だけでなく夫や上司を含め、みんな自分の知っている「○○さん」にしか見えなくなってくるから不思議。それゆえスクリーンの中の女性たちに、ことさら感情移入してしまい、涙がこぼれる場面も二度、三度…。

亀山監督だからこそ

映画で描かれているのは、上司や夫とのコミュニケーションの不具合など登場人物たちの等身大の日常だ。
自身は独身で、お母さんではない。そんな亀山さんが、ここまでリアリティーあふれる場面をなぜ?という疑問。

「描きたかったのは、ママたちへの取材で見えてきた現実。特に、言葉にはならないような悩みの部分です。言えずに我慢して、結果、爆発してしまう女性の感情。一緒に暮らしていても『ほんのちょっとのことだから』『私が我慢すればうまくいく』と抑えてしまうことが多いと知って驚きました。

私自身は言いたいことを言える環境で生きてきて、登場人物たちが抱える息苦しさとは無縁でしたので。自分の意見をしっかり伝えられるようになる社会にすることが、自分らしさに一番必要なことではないかなと思います」。

もしも亀山さんがお母さんだったら、思いが募り過ぎて、あるいは自身のケースに縛られ過ぎて多様な人々の複雑な気持ちをここまで表現できただろうか。あるままを客観的に映し出せたのはそういうことだったのか、と納得した。

自由に選択できる人生を

『マイライフ、ママライフ』と「、」を付けた意味を、「自分の人生と、母親としての人生が分断されたものではなく、地続きであることを表現したかった」と亀山さん。

「子どもができたら人生が変わってしまう、自分らしくいられないんじゃないかと思う人もいますが、全く別の人生になるのではありません。今まで自分が歩んできた地続きの中で、また違う要素が加わったことで生き方や考え方が変化し、より人生が楽しめるということかもしれません」。

こうも話していた。「仕事と育児の両立には、時間、体力、お金と、多くの問題がある中で、最も切実だったのは、子どもへの思い。そして『本当にこれでいいのか』という自分への問いかけ。そこを大切に表現したかったのです」。

共働き、シングル、ステップファミリー…多様化する家族。「子育てや働き方、家族のカタチ…自分らしく自由な選択を、肯定し合える世の中であってほしい」亀山さんの
メッセージが心に響く。これからの「女性の生き方」を考える映画としておすすめだ。

 

映画配信サイト「バーチャルシネマ」
公式ホームページ https://mymom.mystrikingly.com/

ストーリーと解説
結婚から3年、仕事に熱中し、夫婦での生活を楽しむ綾(30)と、2人の幼い子どもをほぼワンオペで育てながら働く沙織(30)。2人が出会うことで、それぞれが抱えていた苦しみが露呈し、自分自身と向き合うことに。2人の周りにいる結婚しないことを選択する女性、子育てをしながら仕事をすることに不安を感じる女性、さまざまなライフスタイルの交錯を描きながら、ジェンダーギャップ指数120位の日本の現実を描いた映画。第14回田辺・弁慶映画祭観客賞受賞

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