女優の那須佐代子さんと、その娘で、第29回読売演劇大賞杉村春子賞を受賞した那須凜さん。実の母娘である2人が、新年、母と娘の壮絶な一夜を描いた芝居に挑む。稽古の合間を縫って、ワーホプレイスとらんたん(横浜みなとみらい)に来所した2人に、作品の見どころ、母と娘として演じることの面白さなどを聞いた。 (文・植地宏美)
女優という職業と子育て
凜/昨夏、初めて親子共演をしました。母の舞台は幼い頃から見ていたけれど、自分が役者として一緒に舞台に立つことで、周りからの母の評価を知りました。お母さんすごいんだよと言ってもらい、改めてすごいなと。
できれば世の中の子どもたちは、親の職場見学をするといいと思いますね。普段の、家で見るお母さんとは全然違うし、こうやって私を育ててくれているのだと実感できます。
佐代子/シングルマザーになってから、もう必死だったのでしょうね。女優という職業柄、舞台に出るときにはきれいにするけれど、家では鏡も見ないし、私の仕事をほぼ優先、青年座時代は3人を連れて旅公演にも行きました。
オムツをほかの劇団員の方に持ってもらい、横浜公演にも来たことあって。さっき凜が「あ、ここ来たことある!」と叫んだのでびっくり。
1、2年生の頃、行きたいと愚図ったので、隣の遊園地で遊ばせて帰ったのを覚えていたようです。今思えば、よくできたなぁと思います。自慢じゃないけれど私には子育ての記憶があまりなく…。実は凜が高校生の時に学校に行っていないということを、面談で初めて知ったくらいです。
子どもが母に求めるもの
凜/私は三姉妹の真ん中ですが、姉がとにかく厳しくて…。母には、お姉ちゃんが怖いから助けて!と、よく訴えていました。私は自分に自信がなく、お姉ちゃんは何でもできる、妹は才能がある、私だけ何もないと思っていました。
佐代子/妹たちに辛く当たることは気づいていましたが、長女に厳しくすると、私がいないときに凜や妹がいじめられるのではという心配も。長女には小さな頃から妹たちの面倒を見てもらっていたので、わがままも言えず、我慢することも多かったでしょう。
私なりになんとかしたいという思いはありました。オーストラリアに劇団で旅行をする機会が一度だけあったのですが、長女を一緒に連れて行きました。家にいるときの長女と全く違って、表情も振る舞いも子どもらしく、本当に楽しそうでした。
実は最近結婚したのですが、親へのプレゼントの中に、その旅行で撮影した私と長女の写真がありました。長女にとってもうれしい、もしかしたら唯一、母親を独り占めした大切な時間だったのかもしれません。
凜/母のおかげで、女優という仕事が身近にありました。
高校卒業のとき進路に悩み、母に相談したら、劇団青年座の研究生になったらいいと。自然な流れで母と同じ道を進むことになったのはありがたいなと思います。
でも私の舞台を見た母が6時間、ごはんを食べながらダメ出しをしてきたときはポロポロ泣いてしまって…。女優としてがんばってほしい、良い演技につながればという母の思いはうれしかったのですが、それよりも、「私を褒めて!」と思いました。
不思議な関係性だなと思います。今では姉は、私のことを応援してくれています。妹は絵の才能があって、今度の舞台のチラシの絵も手がけています。
夢を叶えていくこと
佐代子/凜が芝居を始めてもうすぐ10年。昨年、新人の中から一人が選ばれる杉村春子賞を受賞したこともうれしいことでした。凜は、幼い頃からいい声だなと思っていました。絶対ミュージカルもやってみたらいいと思います。
凜/本当? うれしい! 歌もやってみたいです。それに海外でお芝居をしてみたい夢があって、周りにそう言っていたら、そんな話も舞い込んできました。以前、取材で「母との共演が夢」と答えていたら、それも叶いましたので。
佐代子/そうだったの!? し かも今度は「二人芝居」だもんね。私の夢は、海を見ながら暮らしたい。芝居小屋をやめるわけにはいかないけれど、ここで言っておきますね。
風姿花伝プロデュース『おやすみ、お母さん』
佐代子/シアター風姿花伝は私の実家で、父がつくってくれた劇場です。実際に私も住んでいますから、よく自分の家であんな芝居ができるなとか、大きな声が出せるなとか言われます。今回の『おやすみ、お母さん』は、それに加えて、実の母娘で演じることもあり、演出家の小川絵梨子さんは最初心配していました。シリアスなストーリーで、感情をぶつけ合う場面もあります。親子であることがアドバンテージになると同時に、思わぬ確執が生まれる可能性もゼロではないからです。
凜/実の母と、母と娘の芝居ができるなんて幸せなことだし、私たちにとっても新たな挑戦です。役者として新境地を開くチャンスなのかもしれません。この舞台を通じて、親子でこんなこともできるし、すべて自由なのだと伝えたい。昨夏の共演経験も、大いに生かしたいと思います。
佐代子/1982年にピューリッツァー賞を受賞した戯曲で、私も母として、こんな芝居をやってみたいと思っていました。でもまさか娘と演じることができるなんて。この話には、母の娘に対する強烈な愛情、依存ともいうべき母性を感じます。
きっとお母さん方には共感できる部分があると思います。母親は、つい親目線で物事を見てしまいますが、子どもは親の所有物ではないし、子どもから学ぶことがたくさんあります。
母だからこそ感じるもの。目に見えない大切なことは、本や映画よりも、体感してはじめてわかるものかもしれません。私たちと同じ部屋にいるような感覚になって、肌で感じてほしい作品です。
2023年1月18日(水)~2月6日(月)
シアター風姿花伝(東京都新宿区中落合2-1-10)
脚本/マーシャ・ノーマン、翻訳・演出/小川絵梨子
出演/那須凜、那須佐代子
前売料金/一般:序 5400円、破 5900円、急 6400円
U25(25歳以下):2500円、高校生以下:1000円
当日料金は、500円UP
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