お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

特集 孤育てをなくし、笑顔の子育てを応援する 子育て共感賃貸住宅 「へーベルメゾン・母力BORIKI」の未来

「悩みや喜びを共感できる人がいてくれたら、子育てが楽しくなる」
そんなお母さんたちの声から生まれた賃貸住宅です。
※お母さん大学(お母さん業界新聞社)は、BORIKI倶楽部として、
入居者のコミュニティサポートを担っています。

「母力に住んでよかったこと」を尋ねると、「中庭で遊べること」と、皆さん声を揃えます。
扉を開ければ誰かがそこにいて、「こんにちは」と笑顔を交わし、忙しい夕方には、「ちょっと(子どもを)見ていて」と言える関係があります。
お砂場ではお気に入りのおもちゃの取り合いや、つくった山を壊される経験もしながら、たくましく育つ子どもたち。傍らではお母さんたちもおしゃべりに花を咲かせています。
母力では、大きい子が小さい子の面倒を見るのは当たり前。小さい子は、憧れのお兄ちゃんやお姉ちゃんを見て成長します。
夏はプール、冬は落ち葉集め…。アリやカタツムリを発見した子どもはヒーローに。自然にふれ、人と関わり合いながらきょうだいのように育ち合う子どもたち。大家族のような暮らしが、母力の最大の魅力です。

お母さん大学との出会い

「母力BORIKI」とは「お母さんの笑顔」と「みんなで子育て」をテーマにしたコミュニティ賃貸住宅です。家探しの条件といえば、立地、間取り、家賃。中には「ペット」が飼える、「ピアノ」が置けると、条件付きで探す場合もありますが、「子育て」を条件に住まいを探す方法は見当たりません。

子育て共感賃貸住宅「母力」の誕生は2012年のことです。きっかけは、お母さん大学(株式会社お母さん業界新聞社)にかかってきた一本の電話でした。
「子育て家族のための集合住宅を考えています。お母さんたちの声を聞かせてほしい」電話の主は、旭化成ホームズ株式会社商品企画室でした。

戸建住宅「ヘーベルハウス」で定評のある構造躯体を用いて、賃貸集合住宅「ヘーベルメゾン」を都市部を中心に展開していた同社は、建物の性能やデザインのみでなく、入居希望者のニーズに着目した付加価値商品の開発を進めていました。

お母さん大学との共同研究としてはじめにやったのは、子育て生活において、「あったらいいな」と思うものを自由に挙げていくことでした。その次にやったのは、無数に出てきたそれらから、「なくてもいいもの」を消去していく作業でした。そうして残ったのは、「心のよりどころ」という、目には見えないものでした。

新しい価値への挑戦

多くのお母さんを対象とした調査で、血縁・地縁・仲間とのつながりが希薄となり、孤立化が進むことによって子育てに不安やストレスを感じることが多くなっている現状が明らかになりました。

その結果、「お母さんの笑顔」にとことんこだわり、お母さんたちの声を設計に生かした「母力」1棟目が、東京都武蔵野市に誕生しました。

各住戸の動線上には入居者のコミュニケーションスペースや遊び場を配し、母親や子どもがお互い交流しやすいよう工夫するとともに、コモンスペース(中庭や廊下)に面した玄関側にLDKや土間空間を設けることで、お互いの気配が緩やかに感じ合えるような建物になりました。

独自に定めた住民憲章「子育てクレド」をもとに、コンセプトに共感する入居者を集める仕組みを構築。入居後も、イベントを行う、コミュニティ新聞を発行するなどして、子育て家族の「うれしい」「楽しい」に応えるために、コミュニティ形成の促進を図ってきました。

「BORIKI新聞」は母力コミュニティ情報とお母さん業界新聞コンテンツで構成。お母さん大学が編集制作を担当

子育てクレドに共感する家族

コミュニティをつくる上でポイントとなっているのが「子育てクレド」と呼ばれる住民憲章です。「母力」で共に暮らすための共通認識と基本的ルールを確認するために設けているもので、すべての入居者はこれに賛同し、署名することが義務付けられています。

そこにあるのは、挨拶をする、困ったときは助け合うなど当たり前のことですが、隣人と交流がなく、どんな人かわからないといった都会生活の不安を払拭する、大きな安心につながっています。「子育てクレド」によって、入居者の入れ替わりがあっても、コミュニティを維持継続することができています。

大家族のように暮らす

母力暮らし(コミュニティ)の特徴を一言で表現すると、「現代版・長屋ぐらし」という言葉がぴったりです。

いつでもコンビニに行ける現代では、お醤油を切らしたからと隣人に借りに行く人はいませんが、「母力」では、オムツを切らしたときに、慌ててお隣にかけこんだという話もあるほどです。日頃から親も子も中庭で交流、顔の見える信頼と安心の人間関係があればこそ、「母力」ならではのエピソードです。

また、第二子出産に際しても、悪阻のときは食事のお世話、妊産婦健診のときは上の子を預かるなど、「母力でなければ産めなかった」と公言する人もいます。

実際、「母力なら、小さい子がいても気兼ねなく暮らせるだろう」と入居する人が多いのも事実です。けれども、子育てマンションだからと、子どものドスンバタンやワーワーギャーギャーにおかまいなしではなく、むしろ反対で、お隣や下のおうちでは赤ちゃんがようやく寝静まった頃かもしれないと想像し、気を配るのが母力イズム。

共用部ではルールを守る、迷惑をかけない、危険なことはしないは当たり前。うちの子だけではなく、よその子がそんなことをしていたら遠慮なく注意する、そんな関係が理想です。

「母力」の暮らしや人間関係の中で、一番に良い影響を受けるのは子どもたちです。お砂場や中庭でのケンカやトラブルもコミュニケーションのうち。小さい子はお兄ちゃんやお姉ちゃんに憧れて、いつしか、自分より小さな赤ちゃんには自然とやさしく接することができる子に成長します。自分の親だけでなく、たくさんの大人、異年齢の子どもたちと関わる中で、育ち合っていきます。

入居者による自主イベント

入居者のコミュニティ管理を担当するのは、旭化成不動産レジデンス株式会社とお母さん大学からなる「BORIKI倶楽部」です。具体的なサービスとしては、子育てを楽しむ情報や場の提供。中でも力を入れているのが、入居者同士のコミュニケーションの促進を目的としたイベントの実施です。

新築物件への入居後まもなく行うのは、全員を集めた懇親会、防災ワークショップや夏祭りなど、家族で楽しめる体験型イベントも主催します。

その模様は入居者限定のコミュニティペーパー『BORIKI新聞』を通じて、「母力」の全入居者に情報共有。その後は、七夕やハロウィンなど入居者による企画の運営をサポートするなど、入居者の知恵や力を活用し、自主コミュニティを発展させていくスタイルが特徴です。

直近の昨年10月には、それぞれの「母力」で趣向を凝らしたハロウィンイベントが行われました。写真やレポートを眺めつつ、その日のことを想像しながら、BORIKI新聞を編集していく作業もまた楽しいものです。

「えほん箱」で親子を笑顔に

2018年には日本中・世界中が新型コロナウイルスに見舞われ、「母力」も一切の交流イベントを中止せざるを得なくなりました。緊急事態宣言下では自粛生活を強いられ、長引くおうち時間の中で生まれたのが「母力えほん箱」という企画です。

「えほん箱」とは、お母さん大学と出版社が連携し、絵本を通して親子に笑顔を届ける取り組みでした。コロナ禍で悶々とおうち時間を過ごす親子に、「えほん箱」を届けることができたら…。

「母力」の共用倉庫には、お母さんたち(お母さん大学えほん箱プロジェクトチーム)が厳選した絵本が入った「母力えほん箱」を設置、大人も子どもも自由に絵本を手に取り中庭で広げたり、おうちに持ち帰って読んだりできる仕組みです。

3か月に1度のターンでは新しい絵本に出会い、みんなで絵本を読んだ感想を言い合ったり、絵本の世界を現実世界で表現したり…、きっと楽しいことが起こるに違いありません。

絵本を通してつながる大切さや、絵本がある暮らしの素晴らしさを共有する、新しい試みとして、多くの出版社の賛同と協力を得て、「母力えほん箱」が始まりました。

初年度2020年度は、1年3か月の時間をかけて、母力25棟を回った「えほん箱」。合計50冊の絵本と出会ったことになります。

50冊の絵本を読破

そんなある日、BORIKI倶楽部に、一人の入居者から、うれしい手紙が届きました。「2歳の娘と一緒に50冊の絵本を読み切りました。娘のお気に入りは『ガンピーさんのふなあそび』(ジョン・バーニンガム/ほるぷ出版)という渋い本です。

私ならおそらく手に取らないだろう絵本でした。でも娘はこの本が大好きで、布団でもトイレでもずっとガンピーさんの物語を諳んじています」。手紙の主である黒川奈津実さんに写真を送ってもらいました。

絵本を諳んじる姿、同じ「母力」に住むお姉ちゃんと絵本を楽しむ姿…。その姿に感動した私たちは、「50冊読破おめでとう」のメッセージとともに、金メダルを贈りました。

並行して企画した「母力えほん箱感想文&感想画コンクール」には30点を超える応募があり、土居安子さん(大阪国際児童文学振興財団理事)、中村伸子さん(日本子どもの本研究会理事)をゲスト審査員に招いての審査の結果、木下大源くん(5歳)が描いた『くいしんぼうのクジラ』(谷口智則/あかね書房)の感想画が、最優秀賞に選ばれました。

そしてもう一つ、サプライズなことが起こりました。それはなんと、旭化成不動産レジデンス株式会社が社内公募(自薦他薦)による企画(プロジェクト)の中から、最も意義ある企画に贈られる「社長賞」に、「母力えほん箱」が選ばれたのです。

受賞の理由は、コロナ禍を背景に生まれた、SDGsの視点からも優位性のある企画、多くの入居者を笑顔にしたという実績が認められてのことでした。
「母力」ならではの、子育てファミリーを笑顔にできる環境づくりに、これからも取り組み続けます。

旭化成ホームズ50周年

2022年、旭化成ホームズは、設立50周年を迎えました。4月28日には日本経済新聞に50周年記念広告を出稿、今までの感謝とこれからの決意を込めて「幸せよ、つづけ。」というコピーを伝えました。

多様化する社会の中で人々のライフスタイル、そして住まいに求められるものも変化しています。住まう人の快適を叶えることは、暮らしの満足度を高めるだけではなく、地域に明るさや豊かさを生み、それはオーナーメリットにもつながっています。

コミュニティ賃貸「母力」は、社会の動きを見極めつつ、築年数が経過しても変わらない価値提供を目指し、深化&進化を目指しています。

地域に母力ができると

折しも世間では、公園で遊ぶ子どもの声が騒がしいという近隣住民の声を受け、公園が廃止になるという報道が注目され、人々が賛否の声を上げているさなかです。では、地域に「母力」ができるとどうなるのでしょうか…。

「母力」1棟目のオーナー・高橋邦房さんは、建築を決めた理由を、こう話します。

「時代とともに少子高齢化が進む地域の中で、自分たちに何ができるかと考えたときに、未来の担い手である子どもたちとお母さんを応援する『母力』しかありませんでした。子どもたちのにぎやかな声や笑顔が溢れることで地域が元気になっていく、それが理想だと考えています」。

社会課題への取り組み

現在は、首都圏プラス、関西・高槻市の「母力」を含め27棟をラインナップしていますが、2023年度中に6棟の建設が予定されています。

10年の時を経て変わったもの、変わらないもの。働くお母さんが増えたこと、子育てはお母さんの仕事という概念がなくなり、子どもはできるだけ多くの人や社会の中で成長していくことが望ましいということ。その意味で「母力」は、早くから「孤育て」のテーマと向き合い、それを解決する商品としてブラッシュアップさせ、今があります。

一昨年「母力」は、特定非営利活動法人キッズデザイン協議会主催の「第15回キッズデザイン賞」受賞全234点のうち、優秀作品(全36点)に選定され、最終審査において「キッズデザイン協議会会長賞」を受賞しました。

核家族化の進展と共働きの一般化による孤育てという社会課題に向き合った商品であり、入居者同士が子育ての喜びや苦労を共感し、助け合えるコミュニティを形成、子どもを見守り育む環境を目指した賃貸住宅である点が評価されました。

子どもたちの未来のために

旭化成ホームズ株式会社、旭化成不動産レジデンス株式会社とともに、コミュニティ賃貸「母力」の入居者サポートに取り組んできたお母さん業界新聞社ですが、2023年は、同社とともに新たなプロジェクトを立ち上げ、実証実験に取り組みます。

テーマは喫緊の課題である「育児と仕事の両立」です。育児休業を取得する社員、現在は専業で育児に取り組んでいるお母さん、お父さんを対象に、仕事と家庭と地域…さまざまな場面で役立つ体験プログラムを展開し、「育仕両立の力」を培っていきます。

東京・世田谷区にある「オークラランド住宅公園」ヘーベルハウス展示場の1階スペース「イクシモセンター」がその会場であり、その運営業務をお母さん業界新聞社が担うこととなります。

「育児も仕事も」をコンセプトに、その両立を叶えるためのプロジェクトとしてネーミング。イクシモセンターを舞台に、イクシモプログラムを通じ、ここでも、たくさんの親子の笑顔に出会っていきたいと思います。

イクシモセンターのオープンは2023年1月7日です。
文・青柳真美(編集部兼BORIKI倶楽部担当)

イクシモセンター(東京都世田谷区桜3-24-8)

BORIKI倶楽部担当者に聞きました

石谷 明さん(旭化成不動産レジデンス株式会社)

10年目の母力SDGsな暮らし

今こそ蓄積してきた知見を生かす時だと思っています。母力イズムを見出すまでに10年かかりました。

便利で簡単が好まれる世の中にあって、母力は少々面倒なこともあるけれど、子育てには手間も時間もかかるということ。お父さん、お母さんが周囲の人たちと関わり合いながら生きていく姿勢を子どもはしっかり見ています。

同じ屋根の下で暮らすということは、ある意味きれい事では済まされないこともありますが、それが持続可能な未来に繋がっていることを、母力という稀有な商品を通して伝えていけたらと思います。

楯 智也子(旭化成不動産レジデンス株式会社)

コミュニティの主役は人ですからね

お母さんを笑顔にするという、シンプルで根源的なテーマに挑み続けています。

先日ある方に「これほど素晴らしい母力を、なぜ他社は真似ないのか?」と聞かれ、「だって、手間暇かかりますもん」と答えました。

コミュニティの主役は入居者様で、私たちはあくまでサポート役。一朝一夕にコミュニティはできず、そこに難しさとやりがいがあります。マンション管理は大変だと思われがちですが、母力はみんなを幸せにする仕事。

イベントなどで笑顔に出会えると、私もハッピーになります。これからも入居者様一人ひとりに寄り添っていけたらと思います。