▲2025年4月11日から始まる、横浜の個展のために書き下ろした3枚の新作の前で



2025年4月11日から1か月間、横浜赤レンガ倉庫で、石村嘉成展「いきものたちのワンダーランド」が開かれる!「在廊中に石村親子に取材を申し込もう」そう思っていた。いや、多くの人に嘉成さんを知ってほしいなら、関東で初めて開かれるというこの個展をお知らせしたほうがいい。そう思ったら矢も楯もたまらず、愛媛県新居浜市にあるアトリエへ飛んでいた。玄関で藤本裕子(編集長)と私を迎えてくれたのは嘉成さん。「ようこそ遠くから」と通されたアトリエで、荷物を置くやいなや始まったのは、石村嘉成ワンマンショーだった…。
(取材/藤本裕子・文/青柳真美)
ワンマンショー1部 作品紹介
1部では、横浜の個展に持っていく3つの作品を紹介。2部では、ライブペインティングショーを見せてくれた。目の前で嘉成さんが筆を持ち、キャンバスに向かっている。なんと贅沢な時間だろう。嘉成さんの半径3メートルの世界=アトリエで嘉成さんの未来を感じた。
❶お待たせしました。これから、横浜(の個展)に持っていく、3枚の絵の説明をいたします。どうぞゆっくりとお聞きください。こちらは、エキゾチックな横浜をイメージし、箔を貼って新しい技法に挑戦して描いた3枚の絵です。文化的な考えを取り入れた作品です。アジアン風な雰囲気が感じられるでしょうか。

❷野毛山動物園にいる、コアリクイの親子の絵です。ママの背中に乗ってコアリクイがママとおしゃべりをしながらお出かけをしています。今日はどこへ食べに行こうかなぁ。アリクイはアリを食べに行く場所を相談しています。それはまるで、昔の日曜日、お母さんとデパートのレストランに行くような感じです。

❸続いての作品は、金沢動物園にいる、インドゾウのボンくんとヨウコちゃん。鋭い牙が特徴のインドゾウはアジアの縁起物といわれ、人を幸せにする生きものです。動物園でも、仲良しの2頭は皆さんから愛される存在です。でも今、大きな問題になっているのは、彼らは絶滅危惧種であるということです。

❹そして最後は、ズーラシアにいるオカピの親子ですが、キリンとの違いがわかるでしょうか。オカピのお母さんのお尻をよく見てください。足のところが縞々になっているところが特徴で、色づかいがとっても難しかった。これはオカピの子どもが、お母さんに毛づくろいの仕上げをしてもらって、気持ちいいと言っているところです。

ワンマンショー2部 ライブペインティング


夏休みに広島で行われる個展に向けた作品を描いています。
動物を描く時は動物の気持ちになって描いています。(嘉成さん)
嘉成には動物の気持ちがわかるのでしょう。
絵を描きながら、母親と話をしているのかもしれません。(父・和徳さん)
こちらは傷だらけのライオンです。お母さんや子どもたちを守るため、雄同士で縄張り争いをして闘ったときの傷です。でもライオンの、怒っているのか泣いているのかわからない表情は、環境破壊をする人間たちの問題です。戦争をする人たちは、人のいのちも、動物のいのちも考えていない。動物たちの住処がどんどん奪われていっています。
たてがみにはちょっとビビットな色がいいですね。何度も何度も塗り重ねていきます。最後のひげのところは一番難しいところ。筆で強弱をつけて不規則に描いていきます。
それではこれで最後のライブパフォーマンスを終わります。
愛されるアーティスト・石村嘉成
重度の自閉症児だった石村嘉成さんは、唯一無二のアーティストとして、今や世界を舞台に活躍。その陰には、40歳でがんで他界した母の愛と、亡き妻の遺志を継いだ父との歩みがありました。
嘉成さんが自閉症と診断されたのは2歳の時。「人間の尊厳を保てるよう知識を身に付けさせ、社会性を育み、人に愛される子に育てたい」。
嘉成さんの将来を案じ、泣いて抵抗する嘉成さんに対し、心を鬼にして療育に取り組んだのが母・有希子さんでした。
そこには母の無垢の愛がありました。三歩進んで二歩下がり、二歩進んでは三歩下がり、一進一退を繰り返しながら母と子の二人三脚は続きました。
しかし療育の成果が出始めた矢先、石村家を悲劇が襲います。有希子さんが病に倒れ、40歳の若さで亡くなってしまったのです。残された嘉成さんは小学5年生。療育は道半ばでした。
「有希子の願いを叶えたい」療育のバトンを引き継いだのは父・和徳さん。妻のようにはできないが、妻がやってきたことを無駄にしたくない。「あの時やっておけばよかった」と自身が後悔しないためにも、仕事を言い訳にはせず、嘉成のためにできることは何でもやろう。父と子2人で自転車をこいで高校へも通いました。
高校の選択授業で版画やアクリル画を始めると、高校3年の時の版画の処女作が愛媛県美術館に展示されました。
それでもまだまだ絵の道が開かれたわけではありません。
嘉成さんに社会経験をさせたいと、大学や就職を目指すも叶わず、家にいてできることとして、やむを得ず「絵を描く日々」を選択することになったのです。
高校時代から美術指導をしてくれたのは、寺尾いずみ先生でした。先生のすすめで毎日描き始めた絵日記は、現在も続きます。自閉症児のこだわりと記憶力が良いカタチとなって発揮されたのです。大好きな生きものたちを研究、・探求する力、鮮明に描写する力、何より熱心に描き続ける力、これこそが画家としての原動力です。
フランスの公募展で優秀賞に輝き、パリで展示されてからは、短時間で自閉症のアーティストとして多くの方に認められるようになりました。
新居浜市立郷土美術館での初個展を皮切りに、全国の有名美術館から声がかかるようになりました。現在に至る彼の活躍は目覚ましいものです。
画家としての成長はもちろんのこと、「人から愛されるアーティスト」に変貌していきました。作品はもとより、嘉成さん自身に触れた人たちが皆ファンになってしまう…それほど人を惹きつけ、幸せにするオーラを持っています。
キャンバスに放たれた生きものたち。自由奔放な色彩が、見る者を圧倒します。
「自閉症の画家」と呼ばれてきました。これからは、「アーティスト石村嘉成」として勝負します。
父・石村和徳さんにインタビュー

歳までに適正な教育を
うちの子どこかおかしい?と最初に気づけるのはお母さんです。不安になって家族や友人、先生や専門家に相談すると、決まってこう言われます。「まだ小さいから大丈夫。もう少し様子をみたら?」ぼくはこの言葉を悪魔のささやきと呼んでいます。未就学前に、いやもっと早く。できれば3歳までに療育をスタートさせたほうがいいのです。
障がいだからとあきらめない
「トモニ療育センター」の河島淳子先生の療育を信じてやってきました。河島先生は、泣き叫び、暴れる嘉成を見て、「絶対に大丈夫」と言い切りました。それでも親というもの。わが子を想うがゆえ、どこかで甘やかせたくなるものですが、心を鬼にして。徹底的に「しつけ」ていきました。「わが子を暴君にせず、愛情ある適切な療育を」です。
誰からも好かれる人に育てたい
自閉症と診断されてすぐに夫婦で話し合いました。この子は将来、一人では生きていけないだろう。ならば、人に愛される子に育てたい。そう妻と話しました。親もいつまでも生きて息子を守り続けることはできないのです。優先すべきは「社会性」です。集団に入れ、社会になじませること。いろいろな体験が大事とどこへでも出かけました。
天才ではなく、努力の人
嘉成のことを「持って生まれた才能が開花した」と言う方も多いのですが、決してそうではありません。彼ほど「努力の人」はいません。11年前から続けている絵日記は100冊を超えています。毎日必ず1~2時間をかけて、今日あった出来事と生きものを描いています。彼にあるのは、好きなことを飽きずに続ける才能と、全力で取り組む才能だと思います。

毎日欠かさず描き続けている絵日記。たとえば、右の絵日記は2014年、左は2024年に描いたもの。カメの絵一つも、こんなに変化しています。
母親の厳しくも深い愛情
有希子は嘉成の喜ぶ顔が大好きでした。動物園にも何時間でもつきあいました。深い愛情を持って、厳しくも粘り強い療育を続けてきました。亡くなる2日前に綴っていたのは、療育が道半ばであることへの未練でした。「この子はどうなるのだろう。私のいない環境の中で、また元の野生児状態に戻ってしまうのでは。自分の病より、そちらの方が怖かった」。
たくさんの人に楽しんでもらいたい
嘉成が画家として認められるようになり、私は会社経営の傍ら、彼のプロデューサー兼マネージャー役を引き受けています。美術業界では右も左もわからない異端児ですが、それゆえ新しい発想で、嘉成の作品をより多くの人に見てもらおうというアイデアが沸いてきます。嘉成の世界は一種のエンタメのようなもの。ご家族で楽しんでもらえたらと思っています。
すべての子育てに通じること
一方で「自閉症児の子育て」というテーマで、自身が人前で話す機会をいただくようにもなりました。発達障害などを持ったお子さんのお母さんたちに、少しでも勇気やヒントをお伝えできればと思います。しかし大事なことは、子どもにとって適正なしつけや教育が必要な時期にできているか…。これはどんな子育てにも通じることではないでしょうか。
『自閉症の画家が世界に羽ばたくまで』 著者:石村和徳・石村有希子 絵:石村嘉成 扶桑社/1760円 動物を独特の感性で描く画家・石村嘉成の生い立ちから現在まで。 「わが子を暴君にせず、愛情を持って突き放す」 亡き母の想いを継いだ、父の苦悩の子育てを綴った一冊。
嘉成さんに絵を指導した、寺尾いずみ先生

これだけエネルギッシュで人の心を打つ絵が描けるのは、生まれ持った彼の内面のエネルギーと無縁ではないと思います。それにしてもまさか、ヨシくんがこんなに成功するなんて。私も今は「チーム嘉成」の一員として楽しい毎日を送ることができていて、感謝しています。
アトリエ滞在
石村嘉成情報
石村嘉成サイト
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