お母さん大学は、“孤育て”をなくし、お母さんの笑顔をつなげています

MJレポート/異色の絵本作家、『しってるよ』でデビュー メッセージを絵本にのせ、子どもとお母さんへ

ボク、かあちゃんのこと、なーんでもしってるよ。かいものよー!おかたづけしてーっていうんでしょ。スーパーのカートであそんじゃだめっていうんでしょ。きょうはおかしはかわないよーっていうんでしょ。

お母さんの気持ちを何でも先回りして当てちゃう黒ブタくん。子育てあるあるの日常を切り取った絵本は、多くのお母さんの共感を生んでいます。

大手ハウスメーカーを退職、55歳にして絵本創作の道を本格的に歩みだした、たかだしんいちさん。異色の絵本作家といえるのかもしれません。  (聞き手・宇賀佐智子)

日常の一場面を切り取り子どもの心を描いた絵本 
スーパーに行って帰るという日常の出来事を中心に、主人公のお兄ちゃんと、まだまだ手がかかる小さな妹、お母さんの生活を描いています。「かあちゃんのこと、なーんでもしってるよ」とお母さんのセリフを言い当てるお兄ちゃん。スーパーでは「きょうはおかしはかわないよーっていうんでしょ」と生意気に。でもお母さんに認めてもらいたい、甘えたい…そんな切ない気持ちを表現しました。

言葉を一人称にし、心の中を描かず、読み手が想像しやすいように。感じ方はそれぞれだし、大人も子どももこの世界に入ってきてほしいという思いからです。

英国人作家ジョン・バーニンガムに憧れがあり、お手本にしています。言葉をそぎ落とし、絵は描き込まず、余白を大切に。妹の動作やバックに登場する脇役たちは必要最低限。お母さんブタの目に表情をつけたのは最後だけです。お母さんの気持ちを感じてもらえたらなぁと思います。

保育関係者の絵本勉強会で自作絵本を紹介したときに、文研出版の方と出会いました。そこからアドバイスをもらい、母と息子の物語に妹を加えて増ページ。構想から5年を経ての発刊となりました。

子ども目線で描いているので、子どもからの感想は想像していたのですが、「お兄ちゃんのやさしさにほろっとした」「急かしてばかりだと反省した」など、お母さんたちからたくさん感想をいただき、とてもうれしく思います。

長男を主役にした物語で自らの子育てを振り返る 
私自身は感情の起伏が激しい子どもで両親は大変だったようです。でも紙と鉛筆さえあればずっと絵を描いていたらしく、小学校低学年までお絵描き教室に通っていました。
「頭に浮かぶものを描いてごらん」と、のびのび描かせてくれた先生のおかげで、今の私があるのかなと思います。

結婚して3人の父になりましたが、妻も働いていたため、保育園の送り迎えはもちろん家事・育児とも、二人三脚でやってきました。絵本作家への転職は、家族の猛反対にあいました。でも今は一番辛口の読者であり、応援団です。

主人公の黒ブタくんは長男がモデル。口が重く、表現したいことも飲み込んでしまうタイプです。兄と妹はわが家と同じように2歳差に設定。「ママ」と呼ぶのは恥ずかしく、「かあちゃん」を貫かせてもらいました。背景は自然に溶け込むものにしたいと、住んでいる武蔵野の山や竹林など、身近な風景を描きました。

制作中に、妻と話しました。「うちの子たちはきょうだいで競うように『しってるよ』と言ってたね。いつもお母さんを見ていたんだね」「でもそのことに私たちは気づいていたのかな?」と。今ならわかるけれど、当時は余裕なんてありません。子どもの気持ちをどれだけわかっていたのかと2人で反省しました。

子育てを振り返っての自戒と、去年誕生した孫への思いを込めてつくりました。

 

住宅販売を通して見えてきた大切なもの 
2年前まで勤めていた会社では主に、戸建て住宅を販売。「子ども部屋が欲しい」と購入を希望される、たくさんのお客様とふれあってきました。

そんな中、親子の時間が少ないことが社会問題に。プライベート空間よりも家族で過ごす時間を重視した住宅開発に携わるなど、「家族」に対する考えが目まぐるしく変わる時代を体感。いずれは子どもたちに向けて発信したいと思うようになりました。表現したいという思いが強くなったのは、ここ10年のことです。

「絵を描くこと」は社内ではほとんど知られておりませんでした。お客様の人生経験やライフスタイルを聞かせてもらうときに、「ライフワークとして絵を描き続けたい」と話すくらいで。このように夢が実現するなんて本望です。

今は、これまで忙しくて諦めていた、味噌仕込みやパンづくりに挑戦したり、旅先や動物園でスケッチをしたり…。さまざまな出会いや体験を通してアイデアをためています。

作家として作品に込めるテーマ(メッセージ)があります。ただ、完成した絵本は、読み語る人(母)と聞き手となる人(子)のものです。立場の違う人が、それぞれに感じること、時には作家の込めたテーマを超えて何か大事なものを手に入れる絵本があります。そういった名作に少しでも近づけるよう、創作を続けていきたいと思います。

母と子の心の交流を願い絵本をつくり続けたい
ますます厳しくなる社会環境の中で、子どもを守り育てていくのは大変です。また、コロナ禍で追い詰められているお母さんも少なくないのではと思います。

生きていく上で重要なのはコミュニケーションであり、原点はお母さんと子どもの心の交流だと思います。そこから家族や友だちともつながっていく…。こんな大切な役割を担っているお母さんは本当にすごい。私も微力ながら、絵本を通して応援していけたらと思います。
ただ、読み語りが大好きな私も、この絵本は読めません。お母さんの声が一番なので、ぜひお子さんを膝の上に乗せ、一緒に読んでみてください。

たかだしんいち さんプロフィール/1965年東京都出身。自作絵本で2014年 Hearts Art in Saitama-色彩と明暗- にほんのえほん展金賞、2015年 Hearts Art in TOKYO エイズチャリティー美術展(公社)東京都医師会賞を受賞。2020年旭化成ホームズ株式会社を退職し、絵本の創作活動を本格化。2021年10月『しってるよ』発刊。子ども3人(30男・28女・26女)。

『しってるよ』  たかだしんいち
文研出版 1430円(税込)

 

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